・・・これらはもちろん非常に精密なる最高級の量的実験の結果としてのみ得られるものである。たとえばあまりに有名なルヴェリエの海王星における、レーリーのアルゴンにおけるごときものである。また近ごろの宇宙線のごときものもそうである。これらの発見の重大な・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・ 次には大洋の水量の恒久と関係して蒸発や土壌の滲透性が説かれている。 火山を人体の病気にたとえた後に、物の大きさの相対性に論及し、何物も全和に対しては無に等しいと宣言している。 また火山の生因として海水が地下に滲透し、それが噴火・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・この点についてはさらに深く考究してみたいと思っている。ともかくも一度こういうふうに創作心理を分析した上で連句の鑑賞に心を転じてみると、おのずからそうする以前とはいくらかちがった心持ちをもって同じ作品を見直すことができはしないか。そうして付け・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・もし玉体大事が第一の忠臣なら、侍医と大膳職と皇宮警手とが大忠臣でなくてはならぬ。今度の事のごときこそ真忠臣が禍を転じて福となすべき千金の機会である。列国も見ている。日本にも無政府党が出て来た。恐ろしい企をした、西洋では皆打殺す、日本では寛仁・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・「月に二度公休しるわ。」「どこへ遊びに行く。浅草だろう。大抵。」「そう。能く行くわ。だけれど、大抵近所の活動にするわ。同なじだもの。」「お前、家は北海道じゃないか。」「あら。どうして知ってなさる。小樽だ。」「それはわ・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・狐でもなく女給でもなく、公休日にでも外出した娼妓であったらしい。わたくしはどこで夕飯をととのえようかと考えながら市設の電車に乗った。 その後一年ほどたってから再び元八まんの祠を尋ねると、古い社殿はいつの間にか新しいものに建替えられ、夕闇・・・ 永井荷風 「元八まん」
・・・人生の全局面を蔽う大輪廓を描いて、未来をその中に追い込もうとするよりも、茫漠たる輪廓中の一小片を堅固に把持して、其処に自然主義の恒久を認識してもらう方が彼らのために得策ではなかろうかと思う。――明治四三、七、二三『東京朝日新聞』――・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・、冷笑にあらず、微笑にあらず、カンラカラカラ笑にあらず、全くの作り笑なり、人から頼まれてする依托笑なり、この依托笑をするためにこの巡査はシックスペンスを得たか、ワン・シリングを得たか、遺憾ながらこれを考究する暇がなかった、 へんツマ巡査・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・ 多くもない労働者が、機関銃の前の決死隊のように、死へ追いやられた。 十七人の労働者と、二人の士官と、二人の司厨が、ピークに、「勝手に」飛び込んだ。 高級海員が六人と、水夫が二人と、火夫が一人残った。 第三金時丸は、痛風にか・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
今ここに会社を立てて義塾を創め、同志諸子、相ともに講究切磋し、もって洋学に従事するや、事、もと私にあらず、広くこれを世に公にし、士民を問わずいやしくも志あるものをして来学せしめんを欲するなり。 そもそも洋学のよって興り・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
出典:青空文庫