・・・マレイ語から語頭のLを除くと日本語に似るものの多い事はすでに先覚者も注意した事である。その他にも頭の子音を除いてアソ型になるもの Kasa, Daisen, Tyausu, Nasu があることに注意したい。しかし私はこのようなわずかの材料・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・その後にまた麻布の伊藤泰丸氏から手紙をよこされて、前記原氏のほかに後藤道雄、青地正皓、相原千里等の各医学博士の鍼灸に関する研究のある事を示教され、なお中川清三著「お灸の常識」という書物を寄贈された、ここに追記して大泉氏ならびに伊藤氏に感謝の・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・それからまた低気圧が来て風が激しくなりそうだと夜中でもかまわず父は合羽を着て下男と二人で、この石燈籠のわきにあった数本の大きな梧桐を細引きで縛り合わせた。それは木が揺れてこの石燈籠を倒すのを恐れたからである。この梧桐は画面の外にあるか、それ・・・ 寺田寅彦 「庭の追憶」
・・・(改造社俳句講座第七巻、後藤 季題の中でも天文や時候に関するものはとにかく、地理や人事、動物、植物に関するものは、時を決定すると同時にまた空間を暗示的に決定する役目をつとめる。少なくもそれを決定すべき潜在能をもっている。それで俳句の作者・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・最初に軒端の廻燈籠と梧桐に天の河を配した裏絵を出したら幸運にそれが当選した。その次に七夕棚かなんかを出したら今度は見事に落選した。その後子規に会ったとき「あれはまずい、前のと別人のようだと不折が云っていた」と云われた。その後に冬木立の逆様に・・・ 寺田寅彦 「明治三十二年頃」
・・・ 遺族善後策これは遺言ではなけれど余死したる跡にて家族の者差当り自分の処分に迷うべし仍て余の意見を左に記す一 玄太郎せつの両人は即時学校をやめ奉公に出ずべし一 母上は後藤家の厄介にならせらるるを順当とす・・・ 二葉亭四迷 「遺言状・遺族善後策」
・・・ 日足を擾して、一羽、梧桐の葉かげから、彼方の屋根に飛びうつった。ちちくくとせわしく鳴く。 又、一羽来て、今度は隣の庭にある、何に使うのか滑らかそうな材の頂上に止った。 二かたまり、流れる白雲と青空とを背にして、雀は、嘗て見たど・・・ 宮本百合子 「傾く日」
・・・ 一九一七年に、そのころ後藤末雄氏によって訳された「ジャン・クリストフ」を読んだときの感銘。それから「魅せられたる魂」の英訳がはいって来て「アンネットとシルヴィ」「夏」「母と子」と一冊一冊おぼつかなくよみすすんで行ったころの感銘。ロマン・・・ 宮本百合子 「彼女たち・そしてわたしたち」
・・・一ヵ月半ばかり経った時、作家同盟の木村好子さん、後藤郁子さんが折角面会に来て呉れたのに、留置場の私がそれを知ったのは翌日のしかも夕方でした。出て来てからそのときの話をきくと、まあ何と憎らしいことでしょう! 駒込署の高等係は、余り二人の同志が・・・ 宮本百合子 「逆襲をもって私は戦います」
・・・さもなければ、後藤静香の勤労学校のようにひどい山師の儲け仕事なのです。 それから又、高岡只一はソヴェト同盟の裁判と監獄についても語りました。ソヴェトの裁判が公開であるということ、監獄が、後れた労働者をよい労働者に仕上げて出すためのところ・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
出典:青空文庫