秋の景色○曇り日 日曜。ちっとも風がない。 ○すっかり黄色くなった梧桐の葉、 ○その落葉のひっかかっている槇の木の枝 ○きのうの雨でまだしめっぽく黒く見えている庭木の幹。 離れの方から・・・ 宮本百合子 「情景(秋)」
・・・ 後藤新平の自治に関する講演 ひどく生物哲学を基礎とする自治本能という。「私が云う自治というのは、決してむずかしいことではない、誰にでもじき覚えられる。私のところへ来る少女団や少年団の子供もよく覚える。たった三箇・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・柔い若葉をつけたばかりの梧桐はかぜにもまれ、雨にたたかれた揚句、いきなりかっと照る暑い太陽にむされ、すっかりぐったりしおれたようになって、澄んだ空の前に立って居る。 六月の樹木と思えない程どす黒く汚く見えた。 六月二十四・・・ 宮本百合子 「一九二三年夏」
・・・ ――佃 一郎 自分―― 伸子 父 ――佐々省三 母――多計代 岩本――中西ちゑ子 弟――和一郎 南 ――高崎直子 弟――保 和田――安川ただ/咲森田、岩本散歩 或日曜後藤避暑の話、ミス ダニエル 決心、出立・・・ 宮本百合子 「「伸子」創作メモ(一)」
・・・形よく往来の梧桐が葉を出した。 前々夜見た自動車に轢かれた犬。吠えたかった数匹。○隣の大工仕事、 こわした家、新しく建てる家 六月二十五日から林町に来る スーラーブ進む 七月七日 妙に寒い日 腸をこわ・・・ 宮本百合子 「「伸子」創作メモ(二)」
習慣になっているというだけの丁寧なものごしで、取次いだ若い女は、「おそれいりますが少々おまち下さいませ」と引下って行った。 土庇が出ている茶がかった客間なので、庭の梧桐の太い根元にその根をからめて咲き出ている山茶花・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・作家同盟の後藤郁子、木村よし子さんたちが果物をもって面会に来てくれた時も、高等係は留置場へ降りて行ったふりをして私が「お志はありがたいがこういう場所でおめにかかりたくないから」といったと嘘をでっち上げ、到頭会わせなかった。翌日の夕方まで当の・・・ 宮本百合子 「ますます確りやりましょう」
・・・此方にも鍵なりの地面があり、棕櫚や梧桐、楓らしいものなどが植って居る。 彼方此方歩いて居るうちに、先ず樹木のあるのが私を悦ばせ始めた。屋根は仮令トタン葺きでも、家全体が古物でも、眺め、自然を感じる植物の多いのはよい。内部は、翌日の午後で・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・ 後藤末雄氏が『日本評論』に書いていられる論文「帝国芸術院を審議す」の文章をかりて云えば「爾来、星霜二十余年」今度社会正義に基くことをモットーとする近衛内閣によって、従来の「蚊文士」が「殿上人」となることとなった。「かかる官府の豹変は平・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
・・・伊東忠太博士、池田成彬、後藤新平、平田東助等の青年時代、明治の暁けぼのの思い出の一節はその塾にもつながっていたらしい話である。 父は死に到る迄死ぬことを考えない活気で若々しく活動していた人であった。最後の一年ばかり前、或る海岸で珍しく父・・・ 宮本百合子 「明治のランプ」
出典:青空文庫