・・・ 初めての授業を終って、復た高瀬がこの二階へ引返して来る頃は、丁度二番の下り汽車が東京の方から着いた。盛んな蒸汽の音が塾の直ぐ前で起った。年のいかない生徒等は門の外へ出て、いずれも線路側の柵に取附き、通り過ぎる列車を見ようとした。「・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・しかし何者かがその体のうちに盛んに活動している。右の手で絶えず貨幣をいじって勘定している。そして白い、短い眉毛の下の大きな、どんよりした、青い目で連の方を見ている。老人は直ぐ前を行く二人の肘の間から、その前を行く一人一人の男等を丁寧に眺めて・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・あのね、ほら、左官屋さんなんか、はいているじゃないか、ぴちっとした紺の股引さ、あんなの無いかしら、ね、と懸命に説明して呉服屋さん、足袋屋さんに聞いて歩いたのですが、さあ、あれは、いま、と店の人たち笑いながら首を振るのでした。もう、だいぶ暑い・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・あの樹木に覆われているひくいトタン屋根は、左官屋のものだ。左官屋はいま牢のなかにいる。細君をぶち殺したのである。左官屋の毎朝の誇りを、細君が傷つけたからであった。左官屋には、毎朝、牛乳を半合ずつ飲むという贅沢な楽しみがあったのに、その朝、細・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・ぼくに盛んに英語を聞くので閉口です。所でぼくは語学がなにも出来ないのです。所でぼくも床に入って書いています。給仕君煩さいので、寝てからにしましょう。ラジオのアナウンスみたいな手紙の書き方をお許し下さい。ぼくにはこの方が純粋なような気がするの・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・壁塗り左官のかけ梯子より落ちしものの左腕の肉、煮て食いし話、一看守の語るところ、信ずべきふし在り。再び、かの、ひらひらの金魚を思う。「人権」なる言葉を思い出す。ここの患者すべて、人の資格はがれ落されている。 われら生き伸びて・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・いつも盛んな事ばかりして、人に評判せられたものが、今はどこにいるか、誰も知らない。 * * * ポルジイは大した世襲財産のある伯爵家の未来の主人である。親類には大きい尼寺の長老になって・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・と、今日は不思議にも平生の様に反抗とか犠牲とかいう念は起こらずに、恐怖の念が盛んに燃えた。出発の時、この身は国に捧げ君に捧げて遺憾がないと誓った。再びは帰ってくる気はないと、村の学校で雄々しい演説をした。当時は元気旺盛、身体壮健であった。で・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・その翌日から予算が日程に上ぼっていて、大分盛んな議論があるらしい。その晩は無事に済んだ。その次の日の午前も無事に済んだ。ところが午後になると、議会から使が来て、大きなブックを出して、それに受取を書き込ませた。 門番があっけに取られたよう・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・また大地震で家がつぶれ、道路が裂けて水道が噴出したり、切断した電線が盛んにショートしてスパークするという見ていて非常に危険な光景を映し出して、その中で電話工夫を活躍させている。それからまた犯人と目星をつけた女の居所を捜すのに電話番号簿を片端・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
出典:青空文庫