・・・煙台で聞いたが、敵は遼陽の一里手前で一支えしているそうだ。なんでも首山堡とか言った」 「後備がたくさん行くナ」 「兵が足りんのだ。敵の防禦陣地はすばらしいものだそうだ」 「大きな戦争になりそうだナ」 「一日砲声がしたからナ」・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・ おれは余りに愛国の情が激発して頭がぐらついたので、そこの塀に寄り掛かって自ら支えた。「これは、あなた、どうなさいましたのですか。御気分でもお悪いのですか。やあ、ロシアの侯爵閣下ではございませんか。」 おれは身を旋らしてその男を・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・ 最後にデンプシーの審判で勝負が決まった時介添に助けられて場の中央に出て片手を高く差上げ見物の喝采に答えた時、何だか介添人の力でやっと体と腕を支えているような気がした。これに反してマックの方は判定を聞くと同時にぽんと一つ蜻蛉返りをして自・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・底に当たる節の隔壁に錐で小さな穴を明けておいて開いた口を吸うと羊羹の棒がなめらかに抜け出して来る、それを短く歯でかみ切って食う、残りの円筒形の羊羹はちょっと吹くとまた竹筒の底に落ち着くのである。また吸い出しては食い切る。きたないと言えばきた・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 道太はひどく狼狽したが、かろうじて支えていた。「こっちへ来ると、何かあるのも変だな」道太は呟いたが、何か東京の方へ通信があって、それで呼び返すための電報じゃないかと、ちょっとそういう疑いも起こった。ここへ来てから、彼は東京へ一度し・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・家の軒はいずれも長く突き出で円い柱に支えられている。今日ではこのアアチの下をば無用の空地にして置くだけの余裕がなくって、戸々勝手にこれを改造しあるいは破壊してしまった。しかし当初この煉瓦造を経営した建築者の理想は家並みの高さを一致させた上に・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・余が桜の杖に頤を支えて真正面を見ていると、遥かに対岸の往来を這い廻る霧の影は次第に濃くなって五階立の町続きの下からぜんぜんこの揺曳くものの裏に薄れ去って来る。しまいには遠き未来の世を眼前に引き出したるように窈然たる空の中にとりとめのつかぬ鳶・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・それの安定を保つためには、微妙な数理によって組み建てられた、支柱の一つ一つが必要であり、それの対比と均斉とで、辛うじて支えているのであった。しかも恐ろしいことには、それがこの町の構造されてる、真の現実的な事実であった。一つの不注意な失策も、・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・それが、ビール箱の蓋か何かに支えられて、立っているように見えた。その蓋から一方へ向けてそれで蔽い切れない部分が二三尺はみ出しているようであった。だが、どうもハッキリ分らなかった。何しろ可成り距離はあるんだし、暗くはあるし、けれども私は体中の・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・これを支えんとして求むる所の銭の高は、正しく生活の需用に適して余りなきものか。あるいは千円の歳入を六百円に減じ、質素に家を支えて兼ねて余暇を取り、子を教うるの機会はなきや。この機会を得んとしてかつて試みたることありや。甚だ疑うべし。 ま・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
出典:青空文庫