・・・それが、日照とか夜間放熱とか気温とか風当たりとかそういう単なる気象的条件の差異によってこれらの遅速を説明しようと思っても、なかなか簡単には説明されそうもないような結果であった。また根の周囲の土壌の質や水分供給の差異によるとも思われなかった。・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・電波や熱や光やX線やγ線や、人間を離れて見れば全く同じ物で波の長さという事の外には本質的の差異を認めない。六十余種の原素もおそらくはただ陰陽電子の異なる排列に過ぎぬと考えられる。いよいよ進んで物質とエネルギーは一元に帰しようとする傾向さえ生・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・この事実にもいろいろな意味があるが、主要な目的論的意義はやはり光と音との本質的差異と連関している。しかしここではそれは別問題として、単にこの事実とトーキーの関係を考えてみる。 音が聞こえてから、目でその音源を追究する代わりに、カメラを回・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・この環境の変化に応ずる風俗人情の差異の多様性もまたおそらく世界に類を見ないであろう。一つは過去の封建制度によってこれが強調されたということは許容しても、人力のいかんともし難い天然環境の影響は将来においてもおそらく永久に継続するであろう。試み・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・もし陛下の御身近く忠義こうこつの臣があって、陛下の赤子に差異はない、なにとぞ二十四名の者ども、罪の浅きも深きも一同に御宥し下されて、反省改悟の機会を御与え下されかしと、身を以て懇願する者があったならば、陛下も御頷きになって、我らは十二名の革・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ 行きたくない劇場に誘い出されて、看たくない演劇を看たり、行きたくない別荘に招待せられて、食べたくない料理をたべさせられた挙句、これに対して謝意を陳べて退出するに至っては、苦痛の上の苦痛である。今の世を見るに、世人は飲食物を初めとして学・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・唯仔細に研究し来って今と昔との間にやや差異のあるが如く思われるのは、仮借の方法と模倣の精神とに関して、一はあくまで真率であり、一は甚しく軽浮である。一は能く他国の文化を咀嚼玩味して自己薬籠中の物となしたるに反して、一は徒に新奇を迎うるにのみ・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・ 僕は既に貪濁シャイロックの如き書商に銭を与えた。同時に又、翻訳の露西亜小説カラマゾフ兄弟を愛読するカッフェーの女にも亦銭を恵むことを辞さなかった。彼は資本主義の魔王であって、此れは共産主義の夜叉である。僕は図らずもこの両者に接して、現・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・にして、古人も今人もさまで感情の変るべきにあらぬに、まして短歌のごとく短くして、複雑なる主観的歌想を現すあたわず、ただ簡単なる想をのみ主とするものは、観察の精細ならざりし古代も観察の精細に赴きし後世も差異はなはだ少きがごとし。ただ時代時代の・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・従って、箇性の差異に連れて起る箇々の生活内容及び様式の相異を理解し、その価値を正当に批判すべきことは、もう公理なのだとも思われる。一方から云えば、解り切った事だと云えるだろう。けれども、自分は、そう雑作なく解り切った事だとは、自分に対して云・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
出典:青空文庫