・・・ 空濠にかけてある石橋を渡って行くと向うに一つの塔がある。これは丸形の石造で石油タンクの状をなしてあたかも巨人の門柱のごとく左右に屹立している。その中間を連ねている建物の下を潜って向へ抜ける。中塔とはこの事である。少し行くと左手に鐘塔が・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・ 皮剥けば青けむり立つ蜜柑かな 石橋山の麓を過ぐ頼朝の隠れし処もかなたの山にありと人のいえど日已に傾むきかかれば得行かず。ただ 木のうろに隠れうせけりけらつゝきなど戯る。小田原を過ぐればこの頃の天気の癖とて雨はらはら・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・そして石橋の柱に藍染川とかかれていた。その橋から先はもう小川について行くことができなかった。空の雲を水の面にうつして流れている水は町へ入ったそのあたりから左右を石崖にたたまれ、その崖上の藪かげ、竹垣の下をどこへか行っていた。わたしたち子供は・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・文化現象としてよりもインフレーション現象としての出版問題の解決はむずかしく複雑であろう。石橋湛山は、編輯者としてインフレーション問題を扱えば、まさか聖書の文句を引用して幼児の如くあらずんば天国に入るを得ず、とあるから国民よ、幼児のごとく政府・・・ 宮本百合子 「豪華版」
・・・インフレーションの悪化は防ぎようもなくて、先日のラジオで石橋蔵相が何といったでしょう。彼は聖書の文句を引用しました。「幼な児の如くならざれば天国に入るを得ず。」国民は幼な児のごとく政府を信頼して、三月危機を突破してくれといいました。 戦・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・ 彼等は、第一門に敬神、釈教を区分した。第二門に政書、職官、礼度、奏議、教育。第三門に天文、数学、博物学、医学、兵学、農学。そして、第四門に文学美術、音楽。第五門、編年、家記、伝記、考証、地理。第六門に叢書、類書等を総括している。漢書之・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・ 石橋湛山氏が大蔵大臣として、インフレーションの、恐しいこの時期に、ラジオ放送して、幼な児の如くならずんば天国に入るを得ず、というようなことをいったのは純潔と反対のことであった。大臣という立場は、全人民経済生活の具体的解決を責任としてい・・・ 宮本百合子 「社会生活の純潔性」
・・・仕方なく、度胸を据えて、長唄の石橋をかけた。祖母は、それとは知らず、掛声諸共鼓が鳴り出すと、きっちり両手を膝につっかい、丸まった背を引のばすようにして気張った。その姿は、滑稽でもあり、また気の毒至極であった。実際聴きわける耳もないのに謡と思・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・樟の若葉が丁度あざやかに市の山手一帯を包んで居る時候で、支那風の石橋を渡り、寂びた石段道を緑の裡へ登りつめてゆく心持。長崎独特の趣きがある。実際、長崎という市は、いつの時代にか到る処に賢く豊富な石材を利用したばかりで、すっかり風致に変化を生・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・柳の葉かげ、水際まで石段のついた支那風石橋がかかっている。橋上に立つと、薄い夕靄に柔められた光線の中に、両岸の緑と、次から次へ遠望される石橋の異国的な景色は、なかなか美しかった。 崇福寺は、黄檗宗の由緒ある寺だが、荒廃し、入口の処、白い・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫