・・・「それは草の種子が青や白をもっているためではないでございましょうか。」「そうだ。まあそう云えばそうだがそれでもやっぱりわからんな。たとえば秋のきのこのようなものは種子もなし全く土の中からばかり出て行くもんだ、それにもやっぱり赤や黄い・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・おじいさんと一緒に町へ行って習字手本や読方の本と一緒に買って来た鉛筆でした。いくらみじかくなったってまだまだ使えたのです。使えないからってそれでも面白いいい鉛筆なのです。キッコは樺の林の間を行きました。樺はみな小さな青い葉を出しすきとお・・・ 宮沢賢治 「みじかい木ぺん」
・・・たちの現実的な感情にとってはすぐ何のことか会得しかねる種類の修辞であろうと思われる。 尾崎士郎氏は名調子の感傷とともにではあるが、それとは異った他の人間的情況のスナップをつたえようとしている。榊山氏の文章は虚無的な色調の上に攪乱された神・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・読んで見ると、精神の充実したフルーエントなところがなく修辞的でありすぎ、いつまでも青年の感傷に沈湎して居るような歯痒さがあった。「星座」にも同じ失敗を認める。大づかみに、ぐんと人生を掴まず視点が揺れ、作家としての心が弱すぎた。為に、あれ丈文・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・「畑へ」「種子」をおろそうと決心した。部落は自作農ばかりだから、闘争組織は農民委員会であると規定し、「僕はいよいよ実行運動に入ろう」「時はあたかもウンカ問題で村会とこじれている」「やさしくなくとも僕はやる。我々の故郷に革命の詩をもたらすため・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・蒔いた種子位、自分で仕末つけいでどうするんや。勝手もいいかげんにしとけ。と、とげとげしい言葉になって、気まずく寝て仕舞うのが定だった。 暗いラムプの灯の下で、栄蔵はたのまれて書き物をして居る。 落ちた処ろどころをそろわな・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・満州問題がおこって以来、婦人雑誌を読む女のひとの間に和歌と習字との流行が擡頭している事実を考え、またそのことと、今度平生文相が行おうとしている学制改革案で男の学生には「労働証」女の学生には「家政証」を制定することとを思いあわせ、私は自分もひ・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・ 文学に関する面でも、近頃文章学は従来の作家に縁の遠かった修辞学とは異なった科学的、実験的立場で、文学的作品の解剖、類別などを試みている。丁度谷崎潤一郎の「春琴抄」などが世間の注目をひき、文章の古典復興物語調流行がきざしかけた頃、なにか・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・優良種子、耕地整理、農業技師の派遣等は、生産組合が、責任を負ってやって呉れる。 集団農場化は、大局から見て、都会の工業に対する農村のこれまでの植民地関係を止揚するばかりではない。一人一人の貧農・中農の直接の利害から云って集団農場に加入す・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 紹介者諸氏の驥尾に附して当時シェストフと不安の文学という流行語を口にしない文学愛好者はないようであったが、遂にこの流行は不安に関する修辞学に終った。そして、文学の実際は他の一方で皮肉な容貌を呈して動いた。 明治文学の再評価の機運が・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫