・・・ 修辞上の効果から云えば、自己の主張し肯定しようとする一方のものを引立てるために、それと対照する他の一方のものを強調して描くのが賢い方法であるかもしれません。 併し、或る国の社会状態を紹介し、批評し、未だそれを直接見聞したことのない・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・の道理をのみこめたし、生存の利害はきっちり春桃に結ばれていたし、嫉妬してはならないと云ったから、彼はその種子さえも踏みにじってしまった。李茂にしても、春桃のところから出てほかのどこへ行きたかろう。李茂は、家の内にいて、切手や紙のよりわけが上・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ この毅然とした数行には、この作家が断定しにくい問題に対したときに示す機智・燕がえしの修辞法は一つもない。真正面から、歴史の現実は、かくある、という事実を憚らず語っている。これは文学の言葉である。同時に政治の言葉でもある。なぜなら、政治・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・筆者は、わる丁寧な言葉で、御教示を仰ぎたいとか何とか文学的修辞を並べているが、無用なことだ。 第一、プロレタリア文学の世界的陣営で、芸術創作上の弁証法的方法の問題が、どの位熱心に、誠意をもって討究されているか。作品中に具体化されているか・・・ 宮本百合子 「反動ジャーナリズムのチェーン・ストア」
・・・ 市之進がお国の自殺を見たときの詞は、実に修辞の妙を極めて居るから、少し抜いて同好の士に示してやりたい。曰く「旦、御新造、やれまツ、自、害か、馬ツ、何といふ、いけませんか、療治は、助かりませんかな、やれ、もツ、こんな綺麗な首に、こ、こん・・・ 宮本百合子 「無題(六)」
・・・再び、彼らはその平和の殿堂で、その胎んだ醜き伝統の種子のために開戦するであろう。彼らの武器は、彼らのとるべき戦法は、彼らの戦闘の造った文化のために益々巧妙になるであろう。益々複雑になるであろう。益々無数の火花を放って分裂するであろう。かかる・・・ 横光利一 「黙示のページ」
・・・ 二度目の時は習字の時間である。その時の吉の草紙の上には、字が一字も見あたらないで、宮の前の高麗狗の顔にも似ていれば、また人間の顔にも似つかわしい三つの顔が書いてあった。そのどの顔も、笑いを浮かばせようと骨折った大きな口の曲線が、幾度も・・・ 横光利一 「笑われた子」
・・・ この時期には内にあるいろいろな種子が力強く芽をふき始めます。ちょうど肉体の成長がその絶頂に達するころで、余裕のできた精力は潮のように精神的成長の方へ押し寄せて来るのです。で、この時期に萌えいでた芽はたとえそれが生活の中心へ来なくても、・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫