東京化学製造所は盛に新聞で攻撃せられながら、兎に角一廉の大工場になった。 攻撃は職工の賃銀問題である。賃銀は上げて遣れば好い。しかしどこまでも上げて遣るというわけには行かない。そんならその度合はどうして極まるか。職工の・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・を書いて、職工に工場主の家を襲撃させた。Wedekind は「春の目ざめ」を書いて、中学生徒に私通をさせた。どれもどれも危険この上もない。 パアシイ族の虐殺者が洋書を危険だとしたのは、ざっとこんな工合である。 * ・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・「僕がいま一番尊敬しているのは、僕の使っている三十五の伊豆という下級職工ですよ。これを叱るのは、僕には一番辛いことですが、影では、どうか何を云っても赦して貰いたい、工場の中だから、君を呼び捨てにしないと他のものが、云うことを聞いてはくれ・・・ 横光利一 「微笑」
・・・時には彼は工廠の門から疲労の風のように雪崩れて来る青黒い職工達の群れに包まれて押し流された。彼らは長蛇を造って連らなって来るにも拘らず、葬列のように俯向いて静々と低い街の中を流れていった。 時々彼は空腹な彼らの一団に包まれたままこっそり・・・ 横光利一 「街の底」
出典:青空文庫