・・・何かあったらしらせにおいでよ。」「うん、ぼくね、ねえさんのことでたのみに行くかもしれない。」「ああいいとも。」「じゃ、さよなら。」 ファゼーロはつめくさのなかに黒い影を長く引いて南の方へ行きました。わたくしはふりかえりふりか・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・日本のプロレタリア文学運動が、社会と文学についてのその真実をわたしに知らせたのであった。「日は輝けり」は一九一七年一月に発表された。大都会のゴタゴタのなかで、生活と闘いながら自分を成長させようとしている一人の青年を中心に、一つの家族を描・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第一巻)」
・・・そのしらせを、「子供の村」の下宿でうけとった。「赤い貨車」は小説とすると、比較的外部からかかれている。しかし、当時のソヴェトの生活のごく日常的な面を、自分の見たままリアルにかこうとしている点には意味がある。もっとも「赤い貨車」をかいた頃、作・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」
・・・割引のしらせである。 思いついて、私は一つの広い改正道路を横切って、銀映座の前へ行った。雨傘をさして外套の襟などを立てた黒い人の列が、そう大して人通りのない横丁のこっちの端までのびている。列のなかには派手なマフラーをした若い女のひともい・・・ 宮本百合子 「映画」
・・・ この御人形のような御方、今の女は可愛い声と姿をしながら貴方には悪いしらせをしましたね、御きのどくな」「でも死んだわけでもなしハハハハハ、マア、御あきらめあそばせ」 なぐさめるように、また馬鹿にするように云う。 光君はだまったま・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・やがて楽屋の用意が出来たしらせがあるとお妙ちゃんは長い袂の中から紫の縮緬のふくさに包んだ小さなしかし中のなつかしそうなものを出して「またいつ逢うか……それまでの御かたみや」小さい声でこう云って居た。私も大急ぎで懐の中のはこせこを出して中に入・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
・・・この中には嫡子光貞のように江戸にいたり、また京都、そのほか遠国にいる人だちもあるが、それがのちに知らせを受けて歎いたのと違って、熊本の館にいた限りの人だちの歎きは、わけて痛切なものであった。江戸への注進には六島少吉、津田六左衛門の二人が立っ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ところがその心持を女房に知らせたくないので、女房をどなり附けた。「あたりめえよ。銭がありゃあ皆手めえが無駄遣いをしてしまうのだ。ずべら女めが。」 小さい女房はツァウォツキイの顔をじっと見ていたが、目のうちに涙が涌いて来た。 ツァ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・「ちぇイ主を……主たちを……ああ忍藻が心苦しめたも、虫…虫が知らせたか。大聖威怒王も、ちぇイ日ごろの信心を……おのれ……こはこは平太の刀禰、などその時に馳せついて助…助太刀してはたもらんだぞ」 怨みがましく言いながら、なおすぐにその・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・ お霜は差し出された丸帯を見向きもせず、「いまに思いしらせてやるわ、覚えてよ。」とまた云った。 秋三は「帰ね帰ね」と云うとそのまま奥庭の方へ行きかけた。「何を云うのや! 姉やん、あんな奴に相手にならんと、まア一寸此の帯を見や・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫