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・・・だから地下電車は君らを真空管のように吸い込んでは市の中へ、真空管のように吸い込んでは、滓として市の外へ捨てつつある。ただ手に持つパイプをたたき落されないだけの平安だのに、諸君はさながらロンドンを所有しているかの如く平安なのだ。 或る日、・・・
宮本百合子
「ロンドン一九二九年」
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・・・それは静かな真空のような虚無であった。彼には横たわっている妻の顔が、その傍の薬台や盆のように、一個の美事な静物に見え始めた。 彼は二人の間の空間をかつての生き生きとした愛情のように美しくするために、花壇の中からマーガレットや雛罌粟をとっ・・・
横光利一
「花園の思想」