・・・る欧米の作家や、批判家の最新の著書を見出すと、これを読めば、明日からでも、自分の見識が変るような気がして、それでなくてさえ、何をか常に追うている時代であったら、金がなかった時には、本箱の本を売っても、新書を求めたものでした。 本の包みを・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・彼の祖父の非凡な人であったことを今ここで詳しく話すことはできないが、その一つをいえば真書太閤記三百巻を写すに十年計画を立ててついにみごと写しおわったことがある。僕も桂の家でこれを実見したが今でもその気根のおおいなるに驚いている。正作はたしか・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・「英雄の心緒乱れて糸の如し」という詩句さえある。ことにその恋愛が障害にぶつかるときには勉強が手につかないようなこともある。ことには恋愛に熱中し得る力は、また君につくし、仕事にささげ得る力であることを思えば、生ぬるい恋の仕方をむしろしりぞけた・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ すでに西に帰り、信書しばしば至る。書中雅意掬すべし。往時弁論桿闔の人に似ざるなり。去歳の春、始めて一書を著わし、題して『十九世紀の青年及び教育』という。これを朋友子弟に頒つ。主意は泰西の理学とシナの道徳と並び行なうべからざるの理を述ぶ・・・ 田口卯吉 「将来の日本」
・・・わたくしは病床で『真書太閤記』を通読し、つづいて『水滸伝』、『西遊記』、『演義三国志』のような浩澣な冊子をよんだことを記憶している。病中でも少年の時よんだものは生涯忘れずにいるものらしい。中年以後、わたくしは、機会があったら昔に読んだものを・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・ マードック先生とは二十年前に分れたぎり顔を合せた事もなければ信書の往復をした事もない。全くの疎遠で今日まで打ち過ぎたのである。けれどもその当時は毎週五、六時間必ず先生の教場へ出て英語や歴史の授業を受けたばかりでなく、時々は私宅まで押し・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
・・・一 女は容よりも心の勝れるを善とすべし。心緒無レ美女は、心騒敷眼恐敷見出して、人を怒り言葉※て人に先立ち、人を恨嫉み、我身に誇り、人を謗り笑ひ、我人に勝貌なるは、皆女の道に違るなり。女は只和に随ひて貞信に情ふかく静なるを淑とす。・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 岩波新書で出ている中谷宇吉郎氏の「雪」は、北海道で行われたこの物理学者の研究がきわめて具体的な人間生活への交渉の面から入って意味ふかくのべられていて大変面白い。日本の農業その他と雪とは深いつながりがある。そのことからこの学者の態度も私・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ 富雄さんへの本は新書を三四冊みつけます。新しいのは中々手に入りませんから、手許にあるのを。大抵『アラビアのロレンス』『今日の戦争』『北極飛行』『阿部一族』『高瀬舟』等。 お友達への本代のことは心にかけていますが、そちらからのも手を・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・科学の力、その美、そのよろこび、そこにある人間性を知らせる良書の一つとして岩波新書の「北極飛行」をあげることは、恐らく今日の知識人にとって平凡な常識であろうと思う。ところが、文部省の推薦図書にはこれが入っていない。何故なのだろう。審査員の中・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
出典:青空文庫