・・・ 破していわく、汝提宇子、この段を説く事、ひとえに自縄自縛なり、まず DS はいつくにも充ち満ちて在ますと云うは、真如法性本分の天地に充塞し、六合に遍満したる理を、聞きはつり云うかと覚えたり。似たる事は似たれども、是なる事は未だ是ならず・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・ 碑の面の戒名は、信士とも信女とも、苔に埋れて見えないが、三つ蔦の紋所が、その葉の落ちたように寂しく顕われて、線香の消残った台石に――田沢氏――と仄に読まれた。「は、は、修行者のように言わっしゃる、御遠方からでがんすかの、東京からな・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・が、何々院――信女でなく、ごめんを被ろう。その、お母さんの墓へお参りをするのに、何だって、私がきまりが悪いんだろう。第一そのために来たんじゃないか。」「……それはご遠慮は申しませんの。母の許へお参りをして下さいますのは分っていますけれど・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・実と虚と相接するところに虚実を超越した真如の境地があって、そこに風流が生まれ、粋が芽ばえたのではないかという気がするのである。もっともこの中立地帯の産物はその地帯の両側にある二つの世界の住民から見るとあるいは廃頽的と見られあるいは不徹底との・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(※[#ローマ数字7、1-13-27])」
・・・そうなれば現在のいろいろなイズムの名によって呼ばれる盲目なるファナチシズムのあらしは収まってほんとうに科学的なユートピアの真如の月をながめる宵が来るかもしれない。 ソロモンの栄華も一輪の百合の花に及ばないという古い言葉が、今の自分には以・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・そうなれば現在の色々なイズムの名によって呼ばれる盲目なるファナチシズムの嵐は収まって本当に科学的なユートピアの真如の月を眺める宵が来るかもしれない。 ソロモンの栄華も一輪の百合の花に及ばないという古い言葉が、今の自分には以前とは少しばか・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
出典:青空文庫