・・・僕がポオやドストイェフスキイに牽引されるのも、つまりは彼等の中に、異常性格者的なデカダンスがあるために外ならない。僕のやうな人間が、もし自然のままの傾向で惰力して行つたら、おそらく辻潤や高橋新吉のやうな本格的のダダイストになつたにちがひない・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・しかし、鈍魚という字が面白く、また、ドンコの性格をよくあらわしているので、私は東京阿佐ヶ谷の寓居に「鈍魚庵」という名をつけている。正式にはドンギョあんであるが、ドンコあんと読まれてもさしつかえないことにしている。 ドンコはいくら下手でも・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・現に今日にても士族の仲間が私に集会すれば、その会の席順は旧の禄高または身分に従うというも、他に席順を定むべき目安なければ止むを得ざることなれども、残夢の未だ醒覚せざる証拠なり。或は市中公会等の席にて旧套の門閥流を通用せしめざるは無論なれども・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・その策如何というに、朝夕主人の言行を厳重正格にして、家人を視ること他人の如くし、妻妾児孫をして己れに事うること奴隷の主君におけるが如くならしめ、あたかも一家の至尊には近づくべからず、その忌諱には触るべからず、俗にいえば殿様旦那様の御機嫌は損・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ツルゲーネフの作物、就中『ファーザース・エンド・チルドレン』中のバザーロフなんて男の性格は、今でも頭に染み込んでいる。その他チェルヌイシェーフスキー、ヘルツェン、それから露国の作家じゃないがラッサール、これらはよく読んだものだ。 勿論、・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・「ところが私はドレミファを正確にやりたいんです。」「ドレミファもくそもあるか。」「ええ、外国へ行く前にぜひ一度いるんです。」「外国もくそもあるか。」「先生どうかドレミファを教えてください。わたしはついてうたいますから。」・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・食物の中で消化される分の熱量ででもご比較になったら割合正確だろうと存じます。そう云うふうにしますと一般に動物質の方が消化率も大きいのでありますからよほどお得になります。お得にはなりますがとてもとても半々なんというわけには参りますまい。こんな・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 今日の心情は、その今日の性格において愛と死の問題をわが生の意義の上に悩み、感じ、知りたいと思っているのだと思う。この小説が後半まで書き進められたとき、作者の心魂に今日のその顔が迫ることはなかったのだろうか。愛と死の現実には、歴史が響き・・・ 宮本百合子 「「愛と死」」
・・・同時に、既に十分の技術をもっている作家が、刻々に推移してしかも一般人の生活の歴史に重大な関係をもつ社会事相に敏速に応じ、それを正当な方向において、歴史の意味するところを報告し、より正確で深い人間性に迄ふれて一般人に各自のおかれている現実関係・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・わたしたち人民の判断を、公平で、明朗で、正確なものにするためになくてはならない現実の材料を奪うために、政府はどんな手段をとってきているかが分ります。 ファシズムに対するわたしたちの闘いには、これらのデマゴギーと挑発によって事実を不正確に・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
出典:青空文庫