・・・のロマネスクを、低俗なりとする一刀三拝式私小説の芸術観は、もはや文壇の片隅へ、古き偶像と共に追放さるべきものではなかろうか。そして、白紙に戻って、はじめて虚無の強さよりの「可能性の文学」の創造が可能になり、小説本来の面白さというものが近代の・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・四十代はやがて迷いの中から決然として来るだろうし、二十代はブランクの中から逞しい虚無よりの創造をやるだろうか、三十代はどうであろうか。三十代は自分の胸に窓をあける必要がある。窓の中はガラン洞であってもいい。そのガラン洞を書けばいい。三十代は・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・ それは、全く、彼にも想像にも及ばなかった程、恐ろしい意外のことであった。鑵の凹みは、Yが特に、毎朝振り慣れた鉄唖鈴で以て、左りぎっちょの逞しい腕に力をこめて、Kの口調で云うと、「えゝ憎き奴め!」とばかり、殴りつけて寄越したのだそうであ・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・その破れた箇所には、また巧妙な補片が当っていて、まったくそれは、創造説を信じる人にとっても進化論を信じる人にとっても、不可思議な、滑稽な耳たるを失わない。そしてその補片が、耳を引っ張られるときの緩めになるにちがいないのである。そんなわけで、・・・ 梶井基次郎 「愛撫」
・・・それがいかに彼らの醜い現実に対する反逆であるかを想像するのであった。「いったい俺は今夜あの男をどうするつもりだったんだろう」 生島は崖路の闇のなかに不知不識自分の眼の待っていたものがその青年の姿であったことに気がつくと、ふと醒めた自・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
・・・です、それこそ今のおかたには想像にも及ばぬことで、じゃんと就業の鐘が鳴る、それが田や林や、畑を越えて響く、それ鐘がと素人下宿を上ぞうりのまま飛び出す、田んぼの小道で肥えをかついだ百姓に道を譲ってもらうなどいうありさまでした。 ある日樋口・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・したがってかかる人の文芸の趣味はまた高い種類のものとは想像出来ないのである。リップスの『美学』を読むものはいかに彼の美の感覚が善の感覚と融合しているかを見て思い半ばにすぎるであろう。しかし生を全体として把握しようとするわれわれの目から見ると・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 五 相互選択と男性のイニシアチヴ 青年男女はその性の選択によって相互に刺激し合い、創造と淘汰との作用がおのずと行われる。青年や、娘の美の新しい型が生み出される。これは個人と個人との間だけでなく、ひとつのゼネレーショ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ 過度の書物依頼主義にむしばまれる時は創造的本能をにぶくし、判断力や批判力がラディカルでなくなり、すべての事態にイニシアチブをとって反応する主我的指導性が萎えて行く傾向がある。 知識の真の源泉は生そのものの直接の体験と観察から生まれ・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・それは戦ったり、創造したりする役目のためなのだ。しかしよくしたもので、男性は女性を圧迫するように見えても、だんだんと女性を尊敬するようになり、そのいうことをきくようになり、結局は女性に内側から征服されていく。社会の進歩というものは、ある意味・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
出典:青空文庫