・・・右はいずれも、人生の智徳を発達せしめ退歩せしめ、また変化せしむるの原因にして、その力はかえって学校の教育に勝るものなり。学育もとより軽々看過すべからずといえども、古今の教育家が漫に多を予期して、あるいは人の子を学校に入れてこれを育すれば、自・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・『新古今』は客観的叙述において著く進歩しこの集の特色を成ししも、以後再び退歩して徳川時代に及ぶ。徳川時代にては俳句まず客観的叙述において空前の進歩をなし、和歌もまたようやくに同じ傾向を現ぜり。されども歌人皆頑陋褊狭にして古習を破るあたわず、・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ところでこの間馬場先を通っていたらかねて新聞で披露されていた犯人逮捕用ラジオ自動車が消防自動車のような勢でむこうから疾走して来た。通行人も珍しげにそれをよけて見送っていた。ふと私は民間自動車のラジオは許されていず、その設備のある新車体はセッ・・・ 宮本百合子 「或る心持よい夕方」
・・・日本の警官はイギリスのストックヤードの警官のように足を掬って自由を失ったところを逮捕すればよく、その人が警官を殺そうとして反抗をしない限り足を撃って自由を失ったものを逮捕する、そういう訓練はうけていない。日本の今日の警官は大部分が戦争経験者・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
・・・それらの子供たちの「逮捕留置」が、いまの少年法では困難だ、と論じられている。わたしたち日本の人民は目を大きくあいて、この一行をよむべきである。東條内閣のとき、反戦・反軍をあおる「犯罪」というものがあった。その嫌疑、その告発によって人々は生命・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・マルクス主義を深く理解している者としての筆致で、野呂栄太郎の伝記が細かに書かれ、最後は野呂栄太郎がスパイに売られて逮捕され、品川署の留置場で病死したことが語られている。「昭和八年十一月二十八日敵の摘発の毒牙にかかって遂に検挙され」当時既に肺・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・けれども人類の歴史は常に進歩に向って動いて来ているので、その間に生じる鋭く深刻な矛盾で、当面の生活にどんな障害や停滞や退歩がおこり、生活の低下が生じたとしても、私たちがそれをのりこえてゆく努力の方向は不変に進歩への方角の探究でなくてはならな・・・ 宮本百合子 「その先の問題」
・・・ 竹内景助が「逮捕されたのが八月一日。最初は犯行そのものを否認しつづけ、同月二十日に至り平山検事に単独犯行を自供した。それが九月十三日になって、神崎検事に対してこんどは自分一人ではないと共同正犯を主張した。そして相川検事にもこれを述べ、・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ 突然死んだドラの唯一人の仲よしであったベンジャミンは、翌日、夕刊に、ドラを視た検屍官の逮捕状で一人の男が検挙されたのを読むと一寸出て来ると云ったぎり、もう再び生きた姿を両親に見せませんでした。彼は、警察署に行くと、捕えられて来ていたそ・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・ 七月十五日の三鷹事件では飯田七三氏、山本久一氏の二人が容疑者として十七日に逮捕された。七月十八日の各紙に出ている逮捕理由はおおざっぱで独断的ですべての常識ある人には奇妙に思われるものだった。吉村隊長でさえ、検事局はあれだけ全国的に事実・・・ 宮本百合子 「犯人」
出典:青空文庫