・・・ 災後、東京の都市は忽ち復興して、その外観は一変した。セメントの新道路を逍遥して新しき時代の深川を見る時、おくれ走せながら、わたくしもまた旧時代の審美観から蝉脱すべき時の来った事を悟らなければならないような心持もするのである。 木場・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・しかし蘆荻蒹葭は日と共に都市の周囲より遠けられ、今日では荒川放水路の堤防から更に江戸川の沿岸まで行かねば見られぬようになった。中川の両岸も既に隅田川と同じく一帯に工場の地となり小松川の辺は殊に繁華な市街となっている。 蒹葭は秋より冬に至・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・ お前の轢殺車の道に横わるもの一切、農村は蹂られ、都市は破壊され、山野は裸にむしられ、あらゆる赤ん坊はその下敷きとなって、血を噴き出す。肉は飛び散る。お前はそれ等の血と肉とを、バケット・コンベヤーで、運び上げ、啜り啖い、轢殺車は地響き立・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・改革の後も役夫・職人の輩はただちに国事にかかわることなく、議員の種族はいぜんたる旧の議員にして、ただこの改革ありしがために、早くすでに議員に戒心を抱かしめ、期せずしておのずから下等の人民を利したりという。 ゆえに政府たる者が人民の権を認・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ また、物を盗み人を殺す者といえども、自から利して自己の平安幸福をいたさんと欲するにすぎず。盗んでこれを匿し、殺して遁逃するは何ぞや。他の平安幸福をば害すれども、おのずから害するを好まざるの証なり。また、いかなる盗賊にても博徒にても、外・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・の評論、新女大学の新論は、字々皆日本婦人の為めにするものにして、之を百千年来の蟄状鬱憂に救い、彼等をして自尊自重以て社会の平等線に立たしめんとするの微意にして、啻に女性の利益のみに非ず、共に男子の身を利し家を利し子孫を利し、一害なくして百利・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・の中に、完全に燈火管制された都会の夜の物凄い気持を、自ら仮死状態に陥った都市の凄さを描いている。レーンの小説「戦争」又はレマルクの「西部戦線異状なし」バルビュスの「砲火」などを読んだ人々は、燈火管制下の夜の凄さというものは、仮死どころか、そ・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・それは日本の内にひそんでいる戦争挑発者によってそそのかされてジャーナリズムの上に現れるばかりでなく、在パリその他の外国都市に生活する人、旅行している人々の通信が、ルポルタージュの形をとりながら大きく歪曲をふくんでいる場合が少くない。 ま・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・その頃の千駄木林町と云えば、まことに寂しい都市の外廓であった。 表通りと云っても、家よりは空地の方が多く、団子坂を登り切って右に曲り暫く行くと忽ち須藤の邸の杉林が、こんもり茂って蒼々として居た。間に小さく故工学博士渡辺 渡邸を挾んで、田・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・そういう社会構成の上にギリシアの自由都市は築かれていた。アナキネの物語は、ギリシアの社会に、婦人の本当の自由がなかったこととともに、女に課せられている紡織仕事に対し疑いをもっていたことがうかがわれる。 ジュノーとアナキネの関係が織り紡ぐ・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
出典:青空文庫