・・・その声は年の七つも若い女学生になったかと思うくらい、はしたない調子を帯びたものだった。自分は思わずSさんの顔を見た。「疫痢ではないでしょうか?」「いや、疫痢じゃありません。疫痢は乳離れをしない内には、――」Sさんは案外落ち着いていた。 ・・・ 芥川竜之介 「子供の病気」
・・・あんまりおかしくて、涙が出て、折角縁談にありついたという気持がいっぺんに流されて、ざまあ見ろ。はしたない言葉まで思わず口ずさんで、悲しかった。浮々した気持なぞありようがなかった。くどいようだけれど、それだのにいそいそなんて、そんな……。・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・けれども、吠え狂うような、はしたない泣き方などは決してしない。童女のような可憐な泣き方なので、まんざらでない。 しかし、たった一つ非常な難点があった。彼女には、兄があった。永く満洲で軍隊生活をして、小さい時からの乱暴者の由で、骨組もなか・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・少しはしたないような気はしたが、天涯の孤客だからと自分で自分に申し訳を云った。このローマの宿の一顆の柿の郷土的味覚はいまだに忘れ難いものの一つである。 味覚の追憶などはあまり品の好い話ではないようである。しかしそれだけに原始的本能的に深・・・ 寺田寅彦 「郷土的味覚」
・・・hsita は笑うべき事で「はしたない」に通じる。「はしゃぐ」が笑い騒ぐ事で、「あさましい」も場合によると「笑ひ事」であるのもおもしろい。 セミティックの方面でも (Ar.)basama は「微笑する」で「あさむ」「あさましい」と似てい・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
出典:青空文庫