・・・あの鉄枠の中の青年の生活と、こうした華かな、クリスマスの仮面をつけて犢や七面鳥の料理で葡萄酒の杯を挙げている青年男女の生活――そしてまた明るさにも暗さにも徹しえない自分のような人間――自分は酔いが廻ってくるにしたがって、涙ぐましいような気持・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・五人の女の子に、クリスマス・プレゼントだと言って無闇にお金をくれてやって、それからお昼頃にタキシーを呼び寄せさせて何処かへ行き、しばらくたって、クリスマスの三角帽やら仮面やら、デコレーションケーキやら七面鳥まで持ち込んで来て、四方に電話を掛・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・宿で前に七面鳥を飼っていたが、無遠慮に客室へはいり込むのでよしたという。それにしても猫の少ないだけは確かである。ねずみが少ないためかもしれない。そうだとするとねずみの食うものが少ないせいかも知れない。つまり定住した人口が希薄なせいかもしれな・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・だの「七面鳥の様な」と云って居た。 それでも、叱られ叱られ毎日、朝から晩まで、こせこせ働いて居たうちは、いろいろな仕事に気がまぎれて、少時の間辛い事を忘れて居る様な時もあったけれ共、こう床についたっきりになって、何をするでもなくて居るの・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ジューたんの上におっこったするといきなり骨ばったでっかい指がニュッと出で体を宙にもちあげたそしてその手のもちぬしはズーズー声でこう云った「なああんた、おらが先ごろ飼うて居た七面鳥が大すきでくれればきりがあるま・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・ この村人の育うものは、鳥では一番に鶏、次が七面鳥、家鴨などはまれに見るもので、一軒の家に二三匹ずつ居る大小の猫は、此等の家禽を追いまわし、自分自身は犬と云う大敵を持って居るのである。 人通りのない往還の中央に五六人きたない子がかた・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 風邪をひいた七面鳥のような蒼い顔になったお婆さんに、使者は恭々しく礼をして云いました。「お婆さん、ちっとも驚くことはありません。私共は王様の姫君からよこされた使です。今度王女様が隣りの国の王子と御婚礼遊ばすについて、どうか、朝着る・・・ 宮本百合子 「ようか月の晩」
出典:青空文庫