・・・の私が経歴と言っても、十一二歳のころからすでに父母の手を離れて、専門教育に入るまでの間、すべてみずから世波と闘わざるを得ない境遇にいて、それから学窓の三四年が思いきった貧書生、学窓を出てからが生活難と世路難という順序であるから、切に人生を想・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・門構えで、総二階で、ぽつんとそういう界隈に一軒あるしもたやは何となし目立つばかりでなく、どう見ても借家ではないその家がそこに四辺を圧して建てられていることに、云わばその家の世路での来歴というようなものも察しられる感じなのである。 何年も・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・忘れかねたる吾子初台に住むときいて通るたびに電車からのび上るのは何のためか 呻きのように母の思いのなり響く「秋」世路の荒さを肌に感じさせる「南風の烈しき日」ひとりをかみしめて食む 夕食と涙たよりに・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
出典:青空文庫