・・・という粋な恰好で、ときどき銭函を覗いた。売上額が増えていると、「いらっしゃァい」剃刀屋のときと違って掛声も勇ましかった。俗に「おかま」という中性の流し芸人が流しに来て、青柳を賑やかに弾いて行ったり、景気がよかった。その代り、土地柄が悪く、性・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・女性はあくまで女性としての天真爛漫であって、男性らしくならなければ、中性になるのでもない。女性としての心霊の美しさがくまなく発揮されるのである。 しかしながら涅槃の境地に直ちに達しられるものではない。それにはいろいろな人生の歩みと、心境・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・鷺娘がむやみに踊ったり、それから吉原仲の町へ男性、中性、女性の三性が出て来て各々特色を発揮する運動をやったりするのはいいですね。運動術としては男性が一番旨いんだそうですが、私はあの女性が好きだ、好い恰好をしているじゃありませんか。それに色彩・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・其趣は西洋の文典書中に実名詞の種類を分けて男性女性中性の名あるが如く、往古不文時代の遺習にして固より深き意味あるに非ず。左れば男子は活溌にして身体強大なるが故に陽の部に入り、女子は静にして小弱なるが故に陰なりなど言う理窟もあらんかなれども、・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・世界の元首たちが、スターリングラード市民の名誉のためにおくりものをした品々と云えば、中性の剣とか古代の楯の模造品であり、その記念帳にかかれた文字は、「世界の英雄たち」とか「文明の防衛者達」という字である。スタインベックは、「これらはすべて極・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・一見中性的で、或るかたさ、つめたさが漂っていながら、しかもどっかに激しい女の情慾を感じさせる種類の顔であった。女のようでない、だがそれを知っている者にとって彼女は実に烈しく、だが子は生まない女であるというような手のこんだ、享楽的な感覚の追求・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・美しい十代は、小さい男性、小さい婦人たちとして、性が開花に向いつつ、それが蕾であるゆえの、まだどこか中性の清洌さを湛えていて、おとなのように生物的な負担の重さによたよたしない精神が、萌え出たばかりの新鮮な自我を核心に、長足に子供からおとなへ・・・ 宮本百合子 「若い人たちの意志」
出典:青空文庫