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・・・一番ふさわしいのは、永年かかって、漆で塗りかためた乾漆であると思えた。顔全体が赧みがかった茶色で、眦を黒々と、白眼を冴えて鼻は大きく、そこにどんな雨がふりそそごうと、その雨は粒々になって鼻のさきや顎、額からころがりおちてしまって、ちっともし・・・
宮本百合子
「風知草」
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・・・それもただ銅のみが与え得るような、従って大理石や木や乾漆などにはとうてい見ることのできないような、特殊な触覚的の美しさである。しかもそれが黒青く淀んだ、そのくせ恐ろしく光沢のある、深い色合と、不思議にぴったり結びついている。そういう味わいに・・・
和辻哲郎
「岡倉先生の思い出」