・・・ 夫に二心なきを神の道との教は古るし。神の道に従うの心易きも知らずといわじ。心易きを自ら捨てて、捨てたる後の苦しみを嬉しと見しも君がためなり。春風に心なく、花自ら開く。花に罪ありとは下れる世の言の葉に過ぎず。恋を写す鏡の明なるは鏡の徳な・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・ 騒擾の際に敵味方相対し、その敵の中に謀臣ありて平和の説を唱え、たとい弐心を抱かざるも味方に利するところあれば、その時にはこれを奇貨として私にその人を厚遇すれども、干戈すでに収まりて戦勝の主領が社会の秩序を重んじ、新政府の基礎を固くして・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・チュフリャノフは二心のある奴って訳だべか――そうも思われない。富農の奴が詩篇を読む――そんなことがあるかね! ところがパンフョーロフの小説じゃ、読むこと、読むこと、まるで何かの書付け読むように読みくさる。マルケル・ブイコフが『憲法』って言葉・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ ねえそうじゃあありませんか、 世の中の人が十(分の九十九まで自然の美くしさを非難したり馬鹿にしたって私だけはほんとうに二心のない忠臣で居られる。 私が或る時は守ってやり又或る時は守られる事が出来るまで私と自然の美くしさは近づい・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
出典:青空文庫