・・・ 元来芸術的と考えられるフランス人は感覚的なものによって思索するということができる。感覚的なものの内に深い思想を見るのである。フランス語の「サンス」 sens という語は他の国語に訳し難い意味を有っている。それは「センス」sense で・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・といふことが言はれて居るが、元来文学者の生活には、常に「哲学する日常性」が必要なのである。即ちゲーテも言つてるやうに、詩人に必要なものは哲学でなくして、哲学する精神である。ベルグソンやデルタイは言ふ。真の意味の哲学者とは、哲学を学問する人の・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・世間或は説あり、父母の教訓は子供の為めに良薬の如し、苟も其教の趣意にして美なれば、女子の方に重くして男子の方を次ぎにするも、其辺は問う可き限りに非ずと言う者あれども、大なる誤なり。元来人の子に教を授けて之を完全に養育するは、病人に薬を服用せ・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ただ解決が出来れば幾分か諦が付き易い効はあるが、元来「死」が可厭という理由があるんじゃ無いから――ただ可厭だから可厭なんだ――意味が解った所で、矢張り何時迄も可厭なんだ。すると智識で「死」の恐怖を去る事は出来ん。死を怖れるのも怖れぬのも共に・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・地獄では我々が古参だから頭下げて来るなら地獄の案内教えてやらないものでもないが、生意気に広い墓地を占領して、死んで後までも華族風を吹かすのは気にくわないヨ。元来墓地には制限を置かねばならぬというのが我輩の持論だが、今日のように人口が繁殖して・・・ 正岡子規 「墓」
・・・あいつは元来横着だから、川の中へでも追いこんでやりましょう」と言いました。 ホモイは、 「むぐらは許しておやりよ。僕もう今朝許したよ。けれどそのおいしいたべものは少しばかり持って来てごらん」と言いました。 「合点、合点。十分間だ・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・ 元来、新聞発行そのものが、民意反映の機関として、またその民意を進歩の方向に導くための理想をもって始められた「文明国」らしい仕事であった。 資本も、そんなに大きいものではなかっただろう。記者として働く一人一人が、当時新しく強く意識さ・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・ かれは恥じて怒って呼吸もふさがらんばかりに痛憤して、気も心もかきむしられて家に帰った。元来を言えばかれは狡猾なるノルマン地方の人であるから人々がかれを詰ったような計略あるいはもっとうまい手品のできないともいえないので、かれの狡猾はかね・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・ 元来閭は科挙に応ずるために、経書を読んで、五言の詩を作ることを習ったばかりで、仏典を読んだこともなく、老子を研究したこともない。しかし僧侶や道士というものに対しては、なぜということもなく尊敬の念を持っている。自分の会得せぬものに対する・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・ 室町時代の中心は、応永永享のころであるが、それについて、連歌師心敬は、『ひとり言』の中でおもしろいことを言っている。元来この書は、心敬が応仁の乱を避けて武蔵野にやって来て、品川あたりに住んでいて、応仁二年に書いたものであるが、その書の・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫