大気中の水蒸気が凍結して液体または固体となって地上に降るものを総称して降水と言う。その中でも水蒸気が地上の物体に接触して生ずる露と霜と木花と、氷点下に過冷却された霧の滴が地物に触れて生ずる樹氷または「花ボロ」を除けば、あと・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・西欧諸国のように夏が乾期で冬が湿期に相当する地方だとちょうどいいわけであるが、日本はちょうど反対で夏はたださえ多い湿気が室内に入り込んで冷却し相対湿度を高めたがっているのであるから、屋内の壁の冷え方がひどければひどいほど飽和がひどくなってコ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・近づける速度が非常にゆっくりしていれば、近づいて行く間に鉄はだんだん冷却し、氷はだんだんに解け、解けた水は暖まり、それでいよいよ接触する瞬間にはもう両方の温度の差はわずかになっているから、接触しても別にじゅっともすうとも云わない。しかし両者・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
・・・そのおかげで水が表面から底まで静かにかき回され、冷却されると同時に底のほうで発生した悪いガスなどの蓄積も妨げられる。それを、木のふたで密閉したから夜間の冷却が行なわれず、対流が生ぜず、従って有害なものが底のほうに蓄積して窒息死を起こしたので・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・また温度をいったん百度まで上げて十度に冷却したのと、零度から十度まで温めたのとでも同じではない。かくのごとき履歴の影響は厳密に云えばいつまでも全くは消滅しないものと考えられる。百年前の取扱いも些少ながらその印象を止めているはずである。それで・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・家族もやはり興味が冷却したと見えて、別にそれで不満を感じることもないようであった。それが近頃になって、どうかした機会に、近所のラジオ屋に来て見てもらったら、このラジオ屋さんはちゃんと心得ていてさっそく水道栓へアースを引っぱって、アンテナを天・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
・・・あまり暑いので耳たぶへ水をつけたり、ぬれ手ぬぐいで臑や、ふくらはぎや、足のうらを冷却したりする安直な納涼法の研究をしたこともあった。しかし近年は裏の藤棚の下の井戸水を頭へじゃぶじゃぶかけるだけで納涼の目的を達するという簡便法を採用するように・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・熾烈な日光が之を熱して更に熱する時、冷却せる雨水の注射に因って、一大破裂を来たしたかと想う雷鳴は、ぱりぱりと乾燥した音響を無辺際に伝いて、軈て其玻璃器の大破片が落下したかと思われる音響が、ずしんと大地をゆるがして更にどろどろと遠く消散する。・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・嫁の役目と思えば勉強すべきなれども、其教訓いよ/\厳重にして之を守ることいよ/\窮窟なる其割合に、内実親愛の情はいよ/\冷却して内寒外温、遂に水臭き間柄となるは自然の勢にして、畢竟するに舅姑と嫁と、親子にも非ざる者を親子の如くならしめんとし・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・(こいつは過冷却の水だ。氷相当官私はも一度こころの中でつぶやきました。 全く私のてのひらは水の中で青じろく燐光を出していました。 あたりが俄にきいんとなり、(風だよ、草の穂こんな語が私の頭の中で鳴りました。まっくらでした。ま・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
出典:青空文庫