・・・――明治の初年木戸は陛下の御前、三条、岩倉以下卿相列座の中で、面を正して陛下に向い、今後の日本は従来の日本と同じからず、すでに外国には君王を廃して共和政治を布きたる国も候、よくよく御注意遊ばさるべくと凜然として言上し、陛下も悚然として御容を・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・試みにこれを歴史に徴するに、義気凜然として威武も屈する能わず富貴も誘う能わず、自ら私権を保護して鉄石の如くなる士人は、その家に居るや必ず優しくして情に厚き人物ならざるはなし。即ち戸外の義士は家内の好主人たるの実を見るべし。いかなる場合にも放・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・憎むべきものを凜然として憎むこと。その心の力がなくて、どこに愛が支えをもつでしょうか。 愛とか幸福とか、いつも人間がこの社会矛盾の間で生きながら渇望している感覚によって、私たちがわれとわが身をだましてゆくことを、はっきり拒絶したいと思い・・・ 宮本百合子 「愛」
・・・にしろ作者たちの凜然たる階級的肉薄は感じられないのである。 嘉村礒多氏は、近頃文章だけについて云ってさえ粗末極まるものが多い稀薄なブルジョア作品の中にあって一種独特なねつさ、粘着力を示して「父の家」を書いている。没落する地方の中地主・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・鴎外は、女がさまざまの社会の波瀾に処し、苦しみ涙をおとしながらなおどこにか凜然とした眼差しを持って立って、周囲を眺めやっている姿に、ロマンティックな美を見出している。静的ではあるが、人生を何か内部的な緊張をもった光でつらぬこうとする姿が描か・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
出典:青空文庫