・・・ その年の八月一日、徳川幕府では、所謂八朔の儀式を行う日に、修理は病後初めての出仕をした。そうして、その序に、当時西丸にいた、若年寄の板倉佐渡守を訪うて、帰宅した。が、別に殿中では、何も粗そそうをしなかったらしい。宇左衛門は、始めて、愁・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・が輩ひと通りの考にては、この言はまったく俗吏論にして、学者の心事を知らざるものなりと一抹し去らんとしたれども、また退いて再考すれば、学者先生の中にもずいぶん俗なる者なきに非ず、あるいは稀には何官・何等出仕の栄をもって得々たる者もあらん。然り・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ 祭にも出られず、出仕も出来ない若い男や女房はこの折々をそれにかえて衣服の見せっこ、きりょうのくらべっこ、をしてよろこんで居るので有る。 片山里に住むとは云え風流ごのみは流石京の公卿、広やかな邸の内、燈台・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・ 何だか、じゃあまた来直おそうという気もしないで、賑やかに幾分仰々しい出仕度を眺めてそこに立っていた。すると父は自分の方を人まかせにしながら、「ああ紹介しよう」と、こちらは××の誰さん、「娘です」と云った。私はその人と改・・・ 宮本百合子 「わが父」
出典:青空文庫