・・・それで、第一審の判決は大体の想像では、みんな半年位ずつ減って、上田と大川は執行猶予になるだろうということだった。上田のお母アはすっかり喜んで、お前の母にもあまりひどい事は云わなくなってきた。 判決の日に、みんな隣りの地方裁判所のあるH市・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・で、その原因事情はいずれにもせよ、大審院の判決通り真に大逆の企があったとすれば、僕ははなはだ残念に思うものである。暴力は感心ができぬ。自ら犠牲となるとも、他を犠牲にはしたくない。しかしながら大逆罪の企に万不同意であると同時に、その企の失敗を・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・人物を看るに当って必しも善悪邪正の判決を求めるものではない。唯人物を能く看ることが出来れば、それでよいのである。斯くの如き境遇の下に斯くの如き生活が在るという其の真相を窺いたいと冀っているに過ぎない。僕等はこれを以て芸術家の本分となしている・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・よしんば死刑になるかも分らない犯罪にしても、判決の下るまでは、天災を口実として死刑にすることは、はなはだ以て怪しからん。―― という風なことを怒鳴っていると、塀の向うから、そうだ、そうだ、と怒鳴りかえすものがあった。 ――占めた――・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・いい判決だね。」とみんなささやき合いました。その時向うの窓がガタリと開いて「どうだ、いい裁判長だろう。みんな感心したかい。」と云う声がしました。それはさっきの灰色の一メートルある顔、フゥフィーボー先生でした。「ブラボオ。フゥフィーボ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・のための強国間の協力、アメリカの公務員法案であるタフト・ハートレー法の撤廃、物価の引下げ、人種的差別の撤廃その他を主張して当選したとき、日本では全人民の生活を破壊したさきの侵略戦争共同謀議者二十五名の判決公判が開かれたのであった。荒木をはじ・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ この集の巻頭にある「無罪の判決」の中には探求すべきいくつかの問題がかくされているのである。話の筋は、氏の得意とされる馴れの行動による知識人夫妻の悲劇的殺傷問題である。良人が兇器をもって不自然に死んだ妻の傍に立っていた。だから良人が手を・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・第一審判決後の第一信に「裁判長の趣意は、今の私の立場も心境も充分認めた上、命をもって国民に詫びよ、というのです」と平静に告げられている。そのくだりを読んだとき、私の心には一つの叫びがあった。「命をもって詫びよ。それは尾崎氏らを殺した人々に向・・・ 宮本百合子 「人民のために捧げられた生涯」
・・・われわれの尊敬すべき前衛には判決せられるような真実の罪はどこにもない。ただ、抑圧者が自分たちの利益のために暴圧し、それを大衆の目前に合理化さそうとするだけです。わたしら働く婦人は、階級的前衛に対する支配階級の死刑・重刑絶対反対です。絶対反対・・・ 宮本百合子 「同志たちは無罪なのです」
・・・その一面には三十一日来四十時間のとりしらべののち五年、七年、十年と重労働刑を判決申しわたされた八人の日本の若ものたちの姿がのせられていた。飼主の命令のままに馴らされ、使役される犬猫から牛馬のたぐいは人道的なひとびとによって組織されている愛護・・・ 宮本百合子 「動物愛護デー」
出典:青空文庫