・・・自分の作った人生観さえ自分で信ずることの出来ない私であるから、まして他人の立てた人生観など、そのまま受け入れることの出来るものは一つもない。何ものをも批評するのが先になって、信ずることが出来ない、讃仰することが出来ない。信じ得る人の心は平和・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・ウィリアム・ジェームスの心理学の中に「音楽の享楽にふける事でさえも、その人が自分で演奏者であるか、あるいはその音楽を純理知的に受け入れるほどに音楽的の天賦を有するのでなければ、その人の人格をゆるめ弱めるという結果を生ずるだろう。……この弊を・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・ 素直にその心持を受入れる人は、活溌な微笑の所有者であり、明快な理智の把持者である対象に、人間らしい心持で、いいなと思います。が、従来多くの男性を圧殺し続けて来た、所謂男らしさに心の歪けさせられた者は、憧憬をねじ向けて、嫌厭に突込んでし・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 経済の力の相違が国民の文化生活の間に懸隔をもたらさないと同時に、男であり、女であるという偶然なことで、受け入れる文化のよろこびの範囲が大変掣肘されたり、又は文化の創造力への関心の度がちがったりしないようになることも、一つの切実な要望で・・・ 宮本百合子 「実際に役立つ国民の書棚として図書館の改良」
・・・ 近頃、自分の内的生活を、次に次にと新たなものを受け入れる為、一つ一つをたんねんにギンミし、それに一つ一つの decision を与えて居ない傾向がある。只感じるだけ。そこにあるものがあるのを示し、知り、解剖するに止ることが多い。狭き我・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・ ただ、感じ得る者、いつも謙譲であり真面目であり、受け入れるだけの力のある者のみが感じ得るものであるのに、心附いたのである。 かように、彼女が近くへよって、よく視ようとした偉い人々は、却って広さと遠さの無限のうちへ飛翔してしまったけ・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・他人の親切を、親切として受入れる事の出来ない子達だと思うといかにも「みじめ」な気持にもなるけれ共、私の掛けた親切な言葉は、今まで、今の様な言葉で受けられた事がないので、いかにも気の小さい、気はずかしい様な気持にもなった。 私は微笑する事・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・この様な、世に出てから時の少しほか立たない私でさえ、生活の苦しみを少しも感じた事のない私でさえ、どうしても受け入れる事の出来ない裏書のある親切に会う事はかなり度々である。 子供達から云えば、私は真の路傍の人である、あかの他人である。いき・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・そうすれば職場にいる女の人たちは今までただ受入れるだけで吉屋さんの小説、女が低いものであるという上に立って書かれたものを有難く読んでいたのを、自分たちで何かしら日記にでも書くようになるでしょう。それはやはり労働時間の短縮とか生理休暇があると・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・ これに反して、厄難に会ってからこのかた、いつも同じような悔恨と悲痛とのほかに、何物をも心に受け入れることのできなくなった太郎兵衛の女房は、手厚くみついでくれ、親切に慰めてくれる母に対しても、ろくろく感謝の意をも表することがない。母がい・・・ 森鴎外 「最後の一句」
出典:青空文庫