・・・マルクスは唯物史観に立脚したと称せられているけれども、もし私の理解が誤っていなかったならば、その唯物史観の背後には、力強い精神的要求が潜んでいたように見える。彼はその宣言の中に人々間の精神交渉を根柢的に打ち崩したものは実にブルジョア文化を醸・・・ 有島武郎 「想片」
・・・唯物史観は真理であるけれども、人間の精神的の飛躍がなかったら創造されぬ如く、感情の真も知識の真も畢竟するところ合致すべき一点があるように考えられる。二 その話は別として、先般の反キリスト教同盟というものは、まさに昨年四月から北京・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・アナーキストとして有名なクロポトキンには著書『倫理学』があり、マルクス主義運動家時代のカウツキーにさえ『倫理学と唯物史観』の著があるくらいである。ドイツ無産政党の組織者であったラサールには倫理学的エッセイ多く、エンゲルスや、シュモルラーには・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・私は唯物史観を信じている。唯物論的弁証法に拠らざれば、どのような些々たる現象をも、把握できない。十年来の信条であった。肉体化さえ、されて居る。十年後もまた、変ることなし。けれども私は、労働者と農民とが私たちに向けて示す憎悪と反撥とを、いささ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・史とその発展の理論をわがものとし、先進的なイギリスの経済学を発展的に学びとり、同時に哲学の領域では、大学時代からの研究によってヘーゲルからぬけ出し、やがてフォイエルバッハからも育ち出て唯物弁証法に立つ史観と階級闘争の理論を確立していたカール・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ かがんで頁をといて見たら、誰かの「唯物史観」であった。「あなたがやぶいたんですか」「いや。今帰った若い者が、もう一切こんなものは読みません、とここで誓って破いて行ったんです」「ふーむ」 暫く黙っていたが、主任は乾いた舌・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・河合、三木その他の諸氏によって、誤れる客観主義、あしき客観主義と云われたのは、機械的、反映論風に唯物史観が俗流化されて一般に流布されているため、青年の多くのものは、人類史的規模の中で主体的に自己の人間性の積極性をつかまず、何しろこの世の中で・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・扱われている感情も複雑で、客観的な作者の観察、洞察、史観を要求するのである。アメリカへ、俊子さんはあるいははっきりした発展の計画をもたずに行ったのかもしれなかった。しかし、周囲の生活の内容は谷中天王寺町の小さい庭をもった家の中でのものとすっ・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・ 唯物史観をよんだ現代われわれの棲む資本主義社会の中で自分がどういう階級に属しているかという客観的な立場がハッキリ分って来た。 続いてソヴェト同盟へ行った。そこで、三年生活した。勝利したプロレタリアートの社会生活は、日本の一人の女に・・・ 宮本百合子 「「処女作」より前の処女作」
・・・この野間という作者が、とくに興味のあるのは、その課題を、高見順のように主観的にも『近代文学』のグループの傾向のように一面的に偏執的にも扱っていず、ずっと拡大され、客観的に基礎づけられた社会史観を土台として、しかも、やはり、個人の確立、自己完・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
出典:青空文庫