・・・ 大学講堂の裏の橡の小森をぬけて一町くらいのゲオルゲン街の一区劃に地理教室と海洋博物館とが同居していた。地理のコロキウムはここで行われ、次の二学年を通じて聴いたペンクの一般地理学の講義もここの講堂で授けられた。気象や地球物理に比べて地理・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・これと始めのうちに同居していたたくさんの花瓶はだんだんに入り代わって行くのに、これだけは木守りの渋柿のように残っていた。ところがこのあいだ行って見ると、もうこの自分の好きな花瓶も見えなくなっていた。なんだかやっと安心したような気がしたがはた・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・こんな所に馬車馬と同居していちゃ命が持たない。ゆうべ、あの枕元でぽんぽん羽目を蹴られたには実に弱ったぜ」「そうか、僕はちっとも知らなかった。そんなに音がしたかね」「あの音が耳に入らなければ全く剛健党に相違ない。どうも君は憎くらしいほ・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・西宮さんがそんな虚言を言う人ではないと思い返すと、小万と二人で自分をいろいろ慰めてくれて、小万と姉妹の約束をして、小万が西宮の妻君になると自分もそこに同居して、平田が故郷の方の仕法がついて出京したら、二夫婦揃ッて隣同士家を持ッて、いつまでも・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・夫婦の間に子なき其原因は、男子に在るか女子に在るか、是れは生理上解剖上精神上病理上の問題にして、今日進歩の医学も尚お未だ其真実を断ずるに由なし。夫婦同居して子なき婦人が偶然に再縁して子を産むことあり。多婬の男子が妾など幾人も召使いながら遂に・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・他人の同居して不和なる者、別宅して相親しむべし。他人のみならず、親子兄弟といえども、二、三の夫婦が一家に眠食して、よくその親愛をまっとうしたるの例は、世間にはなはだ稀なり。 今政府と人民とは他人の間柄なり。未だ遠ざからずして、まず相近づ・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・例えば家の相続男子に嫁を貰うか、又は娘に相続の養子する場合にも、新旧両夫婦は一家に同居せずして、其一組は近隣なり又は屋敷中の別戸なり、又或は家計の許さゞることあらば同一の家屋中にても一切の世帯を別々にして、詰る所は新旧両夫婦相触るゝの点を少・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・んなれども、これは神学の言にして、我輩が通俗の意味に用うる道徳は、これを修めんとして修むべからず、これを破らんとして破るべからず、徳もなく不徳もなき有様なれども、後にここに配偶を生じ、男女二人相伴うて同居するに至り、始めて道徳の要用を見出し・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 家庭を尊重し、一家における親子の生活に関心を置くわが民法は、妻に対し夫と同居せざるべからずという規定を設けている。然しながら、妻が、泥酔した夫や花柳病にかかっている夫との性的交渉を拒絶すべき母として当然の権利を、擁護してはいないの・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・三吉の実感と経験のわくのなかに作者も同居していては弱い。作者は表面に出さないにらみとして日本の軍隊というものの底までにらみとおす必要がある。「軍服」が字づらの反戦小説でないだけ、その具体性はつよく深く憤りまでつきぬけた人民としての作者の現実・・・ 宮本百合子 「小説と現実」
出典:青空文庫