・・・国民にして政治の思想なきは、唐虞三代の愚民にして、名は人民なるもその実は豚羊に異ならず。ともに国を守るに足らざるものなれば、いやしくも国を思うの丹心あらんものは、内外の政治に注意せざるべからず。 政治の事、はなはだ大切なりといえども、こ・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ 唐きびのからでたく湯や山の宿 奥の一間に請ぜられすすびたる行燈の陰に餉したため終れば板のごとき蒲団を敷きたり。労れたるままに臥しまろびて足をひねりなどするに身動きにつれてぎしぎしと床のゆるぎたる心もとなき心地す。店の方には男の・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・されば唐時代の文学より悟入したる芭蕉は俳句の上に消極の意匠を用うること多く、従って後世芭蕉派と称する者また多くこれに倣う。その寂といい、雅といい、幽玄といい、細みといい、もって美の極となすもの、ことごとく消極的ならざるはなし。ゆえに俳句を学・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ところがそれはいちめん黒い唐草のような模様の中に、おかしな十ばかりの字を印刷したものでだまって見ていると何だかその中へ吸い込まれてしまうような気がするのでした。すると鳥捕りが横からちらっとそれを見てあわてたように云いました。「おや、こい・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・荷物をおろし、おまえは汗を拭 園丁がこてをさげて青い上着の袖で額の汗を拭きながら向うの黒い独乙唐檜の茂みの中から出て来ます。「何のご用ですか。」「私は洋傘直しですが何かご用はありませんか。若しまた何か鋏でも研ぐのがありましたらそ・・・ 宮沢賢治 「チュウリップの幻術」
・・・におられたころ幾つかの絵でおなじみの矢部友衛さん、岡本唐貴さん、寺島貞志さんその他の方々が、現実会の会員として、あの展覧会に出されていた作品は、あの頃と今日と十数年の間に、日本のすべての芸術家が人生の現実と芸術上のリアリズムの問題とでどんな・・・ 宮本百合子 「第一回日本アンデパンダン展批評」
・・・木材を愛す日本人に比較し、その事業を完成したのは、所謂唐人達の手柄であろうか。長崎の市を、何等史的知識なく一巡した旅客の記憶にも確り印象されるのは、この水に配された石橋の異国的な美や古寺の壮重な石垣と繁った樹木との調和等ではあるまいか。長崎・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
唐の貞観のころだというから、西洋は七世紀の初め日本は年号というもののやっと出来かかったときである。閭丘胤という官吏がいたそうである。もっともそんな人はいなかったらしいと言う人もある。なぜかと言うと、閭は台州の主簿になってい・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
魚玄機が人を殺して獄に下った。風説は忽ち長安人士の間に流伝せられて、一人として事の意表に出でたのに驚かぬものはなかった。 唐の代には道教が盛であった。それは道士等が王室の李姓であるのを奇貨として、老子を先祖だと言い做し・・・ 森鴎外 「魚玄機」
一 村では秋の収穫時が済んだ。夏から延ばされていた消防慰労会が、寺の本堂で催された。漸く一座に酒が廻った。 その時、突然一枚の唐紙が激しい音を立てて、内側へ倒れて来た。それと同時に、秋三と勘次の塊りは組み合ったまま本堂の中へ・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫