・・・ で、川のケイズ釣は川の深い処で釣る場合は手釣を引いたもので、竿などを振廻して使わずとも済むような訳でした。長い釣綸を輪から出して、そうして二本指で中りを考えて釣る。疲れた時には舟の小縁へ持って行って錐を立てて、その錐の上に鯨の鬚を据え・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・草ぬしこのかたの恋のお百度秋子秋子と引きつけ引き寄せここらならばと遠くお台所より伺えば御用はないとすげなく振り放しはされぬものの其角曰くまがれるを曲げてまがらぬ柳に受けるもやや古なれどどうも言われぬ取廻しに俊雄は成仏延引し父が奥殿深く秘めお・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・短い言葉で、不器用な言い廻しで、それでもお父さんの旅の悲しみなどがよく出ていますよ。姉さんにもああいうことがあったら、そんなに苦しまずにも済むだろうかと思うんですが」「俺は歌は読まん。そのかわり若い時分からお父さんの側で、毎日のようにい・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・ 返した花を藤さんは指先でくるくる廻している。「本当にもう春のようですね、こちらの気候は」「暖いところですのね」 自分はもくもくと日のさした障子を見つめて、陽炎のような心持になる。「私ただ今お邪魔じゃございませんか」・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・目をくるくる廻して、首がどっちへでも向くのよ。好いじゃないか。このコルクのピストルはマヤに遣るの。(コルクを填こわくって。わたしがお前さんを撃ち殺すかと思ったの。まさかお前さんがそんなことを思うだろうとは、わたし思わなくって・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・ 私は、こたつに足をつっこみ、二重廻しを着たままで寝た。 夜中に、ふと眼がさめた。まっくらである。数秒間、私は自分のうちで寝ているような気がしていた。足を少しうごかして、自分が足袋をはいているままで寝ているのに気附いてはっとした。し・・・ 太宰治 「朝」
・・・豚を逐い廻したッけ。けれどあの男はもはやこの世の中にいないのだ。いないとはどうしても思えん。思えんがいないのだ。 褐色の道路を、糧餉を満載した車がぞろぞろ行く。騾車、驢車、支那人の爺のウオウオウイウイが聞こえる。長い鞭が夕日に光って、一・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・それをどう云うものだか、ショッフヨオルの先生が十二の所へそっと廻した。なんだか面倒になりそうだから、おれは十五に相当する金をやった。部屋に這入って見ると、机の上に鹿の角や花束が載っていて、その傍に脱して置いて出た古襟があった。窓を開けて、襟・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・の数々のうちで、いちばん自分に親しみとなつかしみを感じさせるのは、昔のわが家のすすけた茶の間で、糸車を回している袖なし羽織を着た老媼の姿である。紋付きを着て撮った写真や、それをモデルにしてかいた油絵などを見ても、なんだかほんとうの祖母らしく・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・ 電話が二度も演舞場からかかってきて、何やらの踊りの鼓を受け持つことになっている歌子の来ようが遅いので、一度は後と廻しにしたけれど、早く来てくれないと困るというのであった。「今使いを出しましたから、帰ってくるとすぐ上げます。お気の毒・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫