・・・ 山椒の皮を春の午の日の暗夜に剥いて土用を二回かけて乾かしうすでよくつく、その目方一貫匁を天気のいい日にもみじの木を焼いてこしらえた木灰七百匁とまぜる、それを袋に入れて水の中へ手でもみ出すことです。 そうすると、魚はみんな毒をのんで・・・ 宮沢賢治 「毒もみのすきな署長さん」
・・・キュリー夫人は土用真盛りの、がらんとしたアパートの部屋でブルターニュの娘たちへ手紙を書いた。「愛するイレーヌ。愛するエーヴ。事態がますます悪化しそうです。私たちは今か今かと動員令を待ち受けています。」 しかし戦争にならなければそちら・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・ ポチが潜るのも面倒がる程、土用の間に裏の夏草は高くなった。コスモスの葉も見える。あの根方の茂みには蛇も昼寝するであろう。 蓬々とした青草の面に、乾いた、何処やら白いような光線が反射し始めた。七月に吹いていたのとは違った風回りで、風・・・ 宮本百合子 「蓮花図」
・・・ 松の新緑が出そろってしまうのは、もう土用も遠くない七月の初めであったと思う。やがて一、二週間もすると、この新緑も落ちついた色に変わってしまう。柳の芽が出始めて以来、三、四個月の間絶えず次から次へと動いていた東山の緑色が、ここで一時静止・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫