・・・実に小規模のもので、学舎というよりむしろただの家といった方が適当な位のものでして、先生は一人、先生を輔佐して塾中の雑事を整理して諸種の便宜を生徒等に受けさせる塾監みたような世話焼が二三人――それは即ち塾生中の先輩でして、そして別に先生から後・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・紋服を着て珠数を持ち十人あまりの塾生のまんなかに背を丸くして坐って、三尺ほど前方の畳のへりを見つめながら三郎は考える。嘘は犯罪から発散する音無しの屁だ。自分の嘘も、幼いころの人殺しから出発した。父の嘘も、おのれの信じきれない宗教をひとに信じ・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・生計に時を費せばおのずから塾生の教導を後にせざるをえず。その失、三なり。一、私塾には黜陟・与奪の公権なきがゆえに、人生天稟の礼譲に依頼して塾法を設け、生徒を導くの外、他に方便なし。人の義気・礼譲を鼓舞せんとするには、己れ自からこれに先だ・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
左の一編は、去月廿三日、府下芝区三田慶応義塾邸内演説館において、同塾生褒賞試文披露の節、福沢先生の演説を筆記したるものなり。 余かつていえることあり。養蚕の目的は蚕卵紙を作るにあらずして糸を作るにあり、教育の・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
出典:青空文庫