・・・かつこの猿芝居は畢竟するに条約改正のための外人に対する機嫌取であるのが誰にも看取されたので、かくの如きは国家を辱かしめ国威を傷つける自卑自屈であるという猛烈なる保守的反動を生じた。折から閣員の一人隈山子爵が海外から帰朝してこの猿芝居的欧化政・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・しがみつかれた男もまた、へたくそな手つきで相手の肩を必要以上に強く抱いてしまって、こわいことない、だいじょぶ、など外人の日本語みたいなものを呟く。舌がもつれ、声がかすれているという情無い有様である。演技拙劣もきわまれりと言うべきである。「甘・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・ 十六 外人部隊 たいへんに前評判のあった映画であるが自分にはそれほどでなかった。言葉のよくわからないせいもあろうがいったいに前のスターンバークの「モロッコ」などに比べて歯切れが悪くてアクセントの弱い作品のように思わ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・しかし外人の俳句観にもたしかに参考になることはある。翻訳と原句と比べてみることによって、始めて俳句というものの本質がわかるような気がするのである。いったい昔からの俳論は皆俳諧の中にいて内側からばかり俳諧を見たものである。近ごろのでもだいたい・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・こういう外人の教師と共に、まだ島田重礼先生というような漢学の大儒がおられた。先生は教壇に上り、腰から煙草入を取り出し、徐に一服ふかして、それから講義を始められることなどもあった。私共の三年の時に、ケーベル先生が来られた。先生はその頃もう四十・・・ 西田幾多郎 「明治二十四、五年頃の東京文科大学選科」
・・・そして又外人相手のバーで――外人より入れない淫売屋で――又飲んだ。 夜の十二時過ぎ、私は公園を横切って歩いていた。アークライトが緑の茂みを打ち抜いて、複雑な模様を地上に織っていた。ビールの汗で、私は湿ったオブラートに包まれたようにベトベ・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・而して独り我が日本国にて外人を雇うは何ぞや。他なし、内国にその人物なきがゆえなり。学者に乏しきがゆえなり。学者の頭数はあれども、役に立つべき学者なきがゆえなり。今の学者が今より勉強して幾年を過ぎなば、この雇の外国人をやめてこれに交代すべきや・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ この時にあたって外人のはばかるものは、ひとり西洋学のみ。ひろく万国の書を読て世界の事状に通じ、世界の公法をもって世界の公事を談じ、内には智徳を脩て人々の独立自由をたくましゅうし、外には公法を守て一国の独立をかがやかし、はじめて真の大日・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・殖産工商の事を勉めて富国の資を大にし、学問教育の道を盛んにして人文の光を明らかにし、海陸軍の力を足して護国の備えを厚うするが如き、実際直接の要用なれども、内外人民の交際は甚だ繁忙多端にして、外国人が我が日本国の事情を詳らかにせんとするは、容・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・実に不可思議千万なる事相にして、当時或る外人の評に、およそ生あるものはその死に垂んとして抵抗を試みざるはなし、蠢爾たる昆虫が百貫目の鉄槌に撃たるるときにても、なおその足を張て抵抗の状をなすの常なるに、二百七十年の大政府が二、三強藩の兵力に対・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
出典:青空文庫