・・・徳川幕府が仏蘭西の士官を招聘して練習させた歩兵の服装――陣笠に筒袖の打割羽織、それに昔のままの大小をさした服装は、純粋の洋服となった今日の軍服よりも、胴が長く足の曲った日本人には遥かに能く適当していた。洋装の軍服を着れば如何なる名将といえど・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・仙台堀と大横川との二流が交叉するあたりには、更にこれらの運河から水を引入れた貯材池がそこ此処にひろがっていて、セメントづくりの新しい橋は大小幾筋となく錯雑している。このあたりまで来ると、運河の水もいくらか澄んでいて、荷船の往来もはげしからず・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・「戦に臨む事は大小六十余度、闘技の場に登って槍を交えたる事はその数を知らず。いまだ佳人の贈り物を、身に帯びたる試しなし。情あるあるじの子の、情深き賜物を辞むは礼なけれど……」「礼ともいえ、礼なしともいいてやみね。礼のために、夜を冒して参・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・る其心労は果して大ならざるか、小児に寒暑の衣服を着せ無害の食物を与え、言葉を教え行儀を仕込み、怪我もさせぬように心を用いて、漸く成人させたる其成跡は果して大ならざるか、之を要するに夫婦家に居て其功労に大小軽重の別なきは、事実の示す所にして之・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・○くだものの大小 くだものは培養の如何によって大きくもなり小さくもなるが、違う種類の菓物で大小を比較して見ると、准くだものではあるが、西瓜が一番大きいであろう。一番小さいのは榎実位で鬼貫の句にも「木にも似ずさても小さき榎実かな」とある。・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・ 大王は大小とりまぜて十九本の手と、一本の太い脚とをもって居りました。まわりにはしっかりしたけらいの柏どもが、まじめにたくさんがんばっています。 画かきは絵の具ばこをカタンとおろしました。すると大王はまがった腰をのばして、低い声で画・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
・・・配給と買出しにしばられて、会合に出席する時間さえもてないでいる主婦たちの毎日が、どんなに凌ぐに張合あるものとなって来るだろう。大小の軍需成金たちは、戦時利得税や、財産税をのがれるために濫費、買い漁りをしているから、インフレーションは決して緩・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・径二寸もあろうかと思われる、小さい急須の代赭色の膚に Pemphigus という水泡のような、大小種々の疣が出来ている。多分焼く時に出来損ねたのであろう。この蝦蟇出の急須に絹糸の切屑のように細かくよじれた、暗緑色の宇治茶を入れて、それに冷ま・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・腰の物は大小ともになかなか見事な製作で、鍔には、誰の作か、活き活きとした蜂が二疋ほど毛彫りになッている。古いながら具足も大刀もこのとおり上等なところで見るとこの人も雑兵ではないだろう。 このごろのならいとてこの二人が歩行く内にもあたりへ・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・そして戦いの大小深浅がまた人間の価値を左右する。 戦いの態度の純一は、複雑な内生よりも、単純な迷いのない生活にはるかに起こりやすい。それゆえただ純一のゆえに意を安めてはいけない。純一の態度に固執する者はともすれば内容を空疎にする。 ・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫