・・・「前にお話するのを忘れたが、この二つは秋山図同様、※苑の奇観とも言うべき作です。もう一度私が手紙を書くから、ぜひこれも見ておおきなさい」 煙客翁はすぐに張氏の家へ、急の使を立てました。使は元宰先生の手札の外にも、それらの名画を購うべ・・・ 芥川竜之介 「秋山図」
・・・近来の快心事、類少なき奇観なり。 昔より言い伝えて、随筆雑記に俤を留め、やがてこの昭代に形を消さんとしたる山男も、またために生命あるものとなりて、峰づたいに日光辺まで、のさのさと出で来らむとする概あり。 古来有名なる、岩代国会津の朱・・・ 泉鏡花 「遠野の奇聞」
・・・しかし、一生、これ式で押し通したら、また一奇観ではあるまいか、など馬鹿な事を考えながら郵便局に出かけた。「旦那。」 れいの爺さんが来ている。 私が窓口へ行って払戻し用紙をもらおうとしたら、「きょうは、うけ出しの紙は要らないん・・・ 太宰治 「親という二字」
・・・やっと捜し出してまっ白になった顔をあげて、口にたまった粉を吐き出しているところはたしかに奇観である。Aepfel Suchen im Wasser というのは、水おけに浮いているりんごを口でくわえる芸当、Wurst Schnappen は頭・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・広く他の部分に波及するときは、人間万事、政党をもって敵味方を作り、商売工業も政党中に籠絡せられて、はなはだしきは医学士が病者を診察するにも、寺僧または会席の主人が人に座を貸すにも、政派の敵味方を問うの奇観を呈するにいたるべし。社会親睦、人類・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・、今のままの方向に進みたらんには、国中ますます教師を生ずるのみにして、実業につく者なく、はじめにいえる如く、蚕を養うて蚕卵を生じ、その卵を孵化してまた卵を生じ、ついに養蚕の目的たる糸を見ざるに等しきの奇観を呈することあるべし。 我が慶応・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
出典:青空文庫