・・・このごろ、子供たちがよくカニとりに行き、何十匹もとって来てオカズ代りになることが多い。しかし、これはほとんど技術が入らず、釣りのうちに入るかどうかわからない。 そこへ行くと、イイダコの方はちょっと技術を要する。イイダコはあまり深くない砂・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・世間或は説あり、父母の教訓は子供の為めに良薬の如し、苟も其教の趣意にして美なれば、女子の方に重くして男子の方を次ぎにするも、其辺は問う可き限りに非ずと言う者あれども、大なる誤なり。元来人の子に教を授けて之を完全に養育するは、病人に薬を服用せ・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・すると、私がずっと子供の時分からもっていた思想の傾向――維新の志士肌ともいうべき傾向が、頭を擡げ出して来て、即ち、慷慨憂国というような輿論と、私のそんな思想とがぶつかり合って、其の結果、将来日本の深憂大患となるのはロシアに極ってる。こいつ今・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・あなたのいらっしゃる時とお帰りになる時とにあなたが子供でいらっしゃった時からの習慣で、わたくしはキスをしてお上げ申しましたのね。それはもと姉が弟にするキスであったのに、いつか温い感じが出て来ましたのね。次第に脣と脣との出合ったのが離れにくく・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・ほんにほんに人の世には種々な物事が出来て来て、譬えば変った子供が生れるような物であるのに、己はただ徒に疲れてしまって、このまま寝てしまわねばならぬのか。(家来ランプを点して持ち来り、置いて帰り行ええ、またこの燈火が照すと、己の部屋のがらくた・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・仙人のごとき仏のごとき子供のごとき神のごとき曙覧は余は理想界においてこれを見る、現実界の人間としてほとんど承認するあたわず。彼の心や無垢清浄、彼の歌や玲瓏透徹。 貧、かくのごとし、高、かくのごとし。一たびこれに接して畏敬の念を生じたる春・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ 二疋の蟻の子供らが、手をひいて、何かひどく笑いながらやって来ました。そしてにわかに向こうの楢の木の下を見てびっくりして立ちどまります。「あっ、あれなんだろう。あんなところにまっ白な家ができた」「家じゃない山だ」「昨日はなか・・・ 宮沢賢治 「ありときのこ」
・・・盆地で暑いせいだろう、前庭に丸太で組んだヤグラのようなすずみ台をこしらえて、西陽のさす方へコモをたらして、そこで女が縫いものをしたり、子供がひるねしたりしていた。 秋田、山形辺は、食糧危機がひどくなってから、主食買い出しの全国的基地とな・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
・・・この男は何をするにも子供の遊んでいるような気になってしている。同じ「遊び」にも面白いのもあれば、詰まらないのもある。こんな為事はその詰まらない遊びのように思っている分である。役所の為事は笑談ではない。政府の大機関の一小歯輪となって、自分も廻・・・ 森鴎外 「あそび」
これは小さい子供を持った寡婦がその子供を寐入らせたり、また老いて疲れた親を持った孝行者がその親を寝入らせたりするのにちょうどよい話である。途中でやめずにゆっくり話さなくてはいけない。初めは本当の事のように活溌な調子で話すが・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫