・・・そうして閣下自身も、その悪む可き幇助者の一人になられたのでございます。 私は今日限り、当区に居住する事を止めるつもりでございます。無為無能なる閣下の警察の下に、この上どうして安んじている事が出来ましょう。 閣下、私は一昨日、学校も辞・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・というと、「そんな幇助罪ならマダ軽いが、不品行の対手の本人なんだ。」「えッ?」と私はまるで狐に魅まれたような気がした。 沼南夫人のジャラクラした姿態や極彩色の化粧を一度でも見た人は貞操が足駄を穿いて玉乗をするよりも危なッかしいの・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・殺人幇助という立派な罪名があります。 以上は、かの芸術家と、いやらしく老獪な検事との一問一答の内容でありますが、ただ、これだけでは私も諸君も不満であります。「いいえ、私は、どちらも生きてくれ、と念じていました。」という一言を信じて、検事・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・自殺幇助罪という不思議の罪名であった。そのときの、入水の場所が、江の島であった。(さきに述べた誘因のためにのみ情死を図ったのではなしに、そのほかのくさぐさの事情がいりくんでいたことをお知らせしたくて、私は、以下、その夜の追憶を三枚にまとめて・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・ 医術というものは結局こういう造化の天然の医術の幇助者の役目を勤めるものであるらしい。名医はすなわちもっとも優秀な造化の助手であるかと思われる。 肉体における医者に相当して、精神の医者もあるはずである。そういう医者に名医ははなはだま・・・ 寺田寅彦 「鎖骨」
・・・上に於て君々たらざるも臣々たらざるを得ずと言うに等しく、婦人の道は柔和忍辱盲従に在り、夫々たらざるも妻々たらざるを得ずとて、専ら其一方の教に力を籠めて自から封建社会の秩序に適合せしめ、又間接に其秩序を幇助せしめたるが如き、一種特別なる時勢の・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫