・・・夫の米リンスキーが世間唯一意匠ありて存すといわれしも強ちに出放題にもあるまじと思わる。 形とは物なり。物動いて事を生ず。されば事も亦形なり。意物に見われし者、之を物の持前という。物質の和合也。其事に見われしもの之を事の持前というに、事の・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・積極的美とはその意匠の壮大、雄渾、勁健、艶麗、活溌、奇警なるものをいい、消極的美とはその意匠の古雅、幽玄、悲惨、沈静、平易なるものをいう。概して言えば東洋の美術文学は消極的美に傾き、西洋の美術文学は積極的美に傾く。もし時代をもって言えば国の・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
オーストリイのウィーン市のはずれに公園のように美しい墓地がある。そこに、ベートーヴェンの墓やモーツァルトの墓があった。偉大な音楽家の生涯にふさわしく、心をこめて意匠された墓が、晩春の花にかこまれてあるのを見た。 ポーラ・・・ 宮本百合子 「行為の価値」
・・・程よく、斬新な色調の織物、宝石の警抜な意匠、複雑な歯車、神秘的なまで単純な電気器具、各々の専門に従って置きかえる。 それ等の窓々を渡って眺めて行く私共は、東京と云う都市に流れ込み、流れ去る趣味の一番新しい断面をいつも見ているようなもので・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・ 作者が、海の広い面に向って落ちて行く翼の破れた大鳥の意匠をその本の表紙に使った心持を、私共は何と解釈すべきでしょう。 申さずとも明です。 然し、現代の女性一般の胸の裡には、そのロザリーの落付き得た生活様式とは何か異ったものを求・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・紙や布もたっぷり買って種々様々の意匠をこらし、そこの職場の飾物もこしらえるだろう。そういうよろこびは、すべて、私たち日本の働く人民が、来年五月を迎えるまでの一年の間に、どれだけ自分たちの団結の力、組織の力をつよめ、日本を働いて生きるものの幸・・・ 宮本百合子 「メーデーに歌う」
出典:青空文庫