・・・にかく君の本体なるものは活きた、成長して行く――そこから芽が吹くとか枝が出るとかいったようなものではなくて、何かしら得体の知れないごろっとした、石とか、木乃伊とか、とにかくそんなような、そしてまったく感応性なんてもののない……そうだ、つまり・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・そうしてこれに次いでいろいろさまざまな幼時の記憶が不可解な感応作用で呼び出されるのである。 八 鏡の中の俳優I氏 某百貨店の理髪部へはいって、立ち並ぶ鏡の前の回転椅子に収まった。鏡に写った自分のすぐ隣の椅子に、半白で・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・所を異にした胞衣とそのもとの主との間につながる感応の糸といったようなものは現在の科学の領域内に求め得られるはずはないからである。 ことによると、この「嫌忌の遺伝」は、正当の意味での遺伝として生殖細胞のクロモソームを通して子孫に伝わるので・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ペンに微量の荷電があれば、あるいは自身にはなくても他に荷電体があれば、その感応によって周囲の物との間に引斥力が起る。また地球磁場等の影響はこれに偶力を及ぼす事になる。その磁場は諸天体にも感応し反対に諸天体の磁場もまたこれに影響する。仮りに周・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・ 磁石の作用を考えている中に「感応」の観念の胚子、「力の場」「指力線」などの考えの萌芽らしいものも見られる。しかし全体としての説明は不幸にして今の言葉には容易に書き直されないものである。 終わりには「病気」に関する一節があって、そこ・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・その外の実験は色に関するものや、電気感応と惰性とのアナロジーなどに関するもので、これに関するマクスウェルとの文通が保存されている。 一八七一年に、ケンブリッジに新設されたキャヴェンディッシ講座に適当な人を求める問題がおこった。その時レー・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・ そもそも海を観る者は河を恐れず、大砲を聞く者は鐘声に驚かず、感応の習慣によって然るものなり。人の心事とその喜憂栄辱との関係もまた斯のごとし。喜憂栄辱は常に心事に従て変化するものにして、その大に変ずるに至ては、昨日の栄として喜びしものも・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・大黄の下剤の如きは、二、三時間以上を経過するに非ざれば腸に感応することなし。薬剤の性質、相異なるを知るべし。また、草木に施す肥料の如き、これに感ずるおのおの急緩の別あり。野菜の類は肥料を受けて三日、すなわち青々の色に変ずといえども、樹木は寒・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
出典:青空文庫