・・・しかもそれはこれに併行する経済的の帳簿の示す数字によって制約されつつ進行するのである。細かく言えば高価なフィルムの代価やセットの値段はもちろん、ロケーションの汽車賃弁当代から荷車の代までも予算されなければならないのである。これを、詩人が一本・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・僅一行の数字の裏面に、僅か二位の得点の背景に殆どありのままには繰返しがたき、多くの時と事と人間と、その人間の努力と悲喜と成敗とが潜んでいる。 従ってイズムは既に経過せる事実を土台として成立するものである。過去を総束するものである。経験の・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・すなわち人のためにする仕事の分量は取りも直さず己のためにする仕事の分量という方程式がちゃんと数字の上に現われて参ります。もっとも吝で蓄めている奴があるかも知れないが、これは例外である。例外であるが蓄めていればそれだけの労力というものを後へ繰・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・だが、無頼漢共を量る時には、一年の概念的な数字に過ぎなかった。その一年の間に、人間の生活が含まれていると云う事は考えられなかった。それは自分には関係のない一年であった。その一年の間に、他人の生活の何千年かを蛹にしてしまう職業に携っている、そ・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・然るに西洋流の帳面をそのままに用い、横文の数字を横に記して、人の姓名も取引の事柄も日本の字を横に書き、いわば額面の文字を左の方から読む趣向にするものありと聞けり。 この趣向はなはだ便利なり。第一、西洋の帳面を摸製するにやすく、あるいは摸・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・って縁をとったようになっている山脈、またそれから枝を出して海の中に点々の島をつくっている一列の山々には、みんな赤や橙や黄のあかりがついていて、それがかわるがわる色が変わったりジーと蝉のように鳴ったり、数字が現われたり消えたりしているのです。・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・なるほど一つ一つの花にはそう思えばそうというような小さな茶いろの算用数字みたいなものが書いてありました。「ミーロ、いくらだい。」「一千二百五十六かな、いや一万七千五十八かなあ。」「ぼくのは三千四百二十……六だよ。」「そんなに・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ そして、私たちの考える能力をこれまでのかたくるしい修養修養という型からの〔数字分破損〕自発的な一日の計画に敬意をはらって日本のラジオも、民衆のエイチに信頼し立派な音楽でも送ってゆくようになりたいものだと思います。〔一九四六年九月〕・・・ 宮本百合子 「朝の話」
・・・理由は天文学的数字の予算をまかなえないからであり、そのなかで小さくない部分を占めている終戦処理費というものを出さなければならないからとされている。 この処理費というものはどういう風にしてどこへつかわれるものなのだろう。戦時中の軍備施設を・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・あの白書のなかにかかれている文句を、数字に直し、それを原型として一枚の生活図をひいたらば、それは果して人間生活という肉体に合うようなものだろうか。 日本のあらゆる女性が手にもって暮して来た物指やテープをハトロン紙の上に走らせるばかりでな・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
出典:青空文庫