・・・予算から寄附金のことまで自分が先に立って苦労する。敷地の買上、その代価の交渉、受負師との掛引、割当てた寄附金の取立、現金の始末まで自分に為せられるので、自然と算盤が机の上に置れ通し。持前の性分、間に合わして置くことが出来ず、朝から寝るまで心・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・ 又、S町の近くに田を持っていたあの松茸番の卯太郎は、一方の分を製薬会社の敷地に売って五千円あまりの金を握った。 こういう売買の仲介をやるのが、熊さんという男だ。三十二本の歯をすべて、一本も残さず金で巻いている。何か、一寸売買に口を・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・このあいだの晩、床にはいってから、試みに宅の敷地内にある、花の咲く植物の数を数えてみた。二三十もあるかと思って数えてみたら、実際は九十余種あった。しかし帝展の絵に現われる花の種類は、まだ数えてみないが、おそらくずっと少なそうである。 数・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・この間の晩、床に這入ってから、試みに宅の敷地内にある、花の咲く植物の数を数えてみた。二、三十もあるかと思って数えてみたら、実際は九十余種あった。しかし帝展の絵に現われる花の種類は、まだ数えてみないが、おそらくずっと少なそうである。 数の・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・の小説にある、無政府主義者が鉱山のシャフトの排水樋を夜窃に鋸でゴシゴシ切っておく、水がドンドン坑内に溢れ入って、立坑といわず横坑といわず廃坑といわず知らぬ間に水が廻って、廻り切ったと思うと、俄然鉱山の敷地が陥落をはじめて、建物も人も恐ろしい・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・停車場及鉄道線路の敷地となった処には維新前には下寺と呼ばれた寛永寺所属の末院が堂舎を連ねていた。此処に停車場を建てて汽車の発着する処となしたのは上野公園の風趣を傷ける最大の原因であった。上野の停車場及倉庫の如きは其の創設の当初に於て水利の便・・・ 永井荷風 「上野」
・・・もと鉄道線路の敷地であったと見え、枕木を掘除いた跡があって、ところどころに水が溜っている。両側とも板塀が立っていて、その後の人家はやはり同じような路地の世界をつくっているものらしい。 線路址の空地が真直に闇をなした彼方のはずれには、往復・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・しかしその折にはまだ裏手の通用門から拝観の手続きをなすべき案内をも知らなかったので、自分は秋の夜の静寂の中に畳々として波の如く次第に奥深く重なって行くその屋根と、海のように平かな敷地の片隅に立ち並ぶ石燈籠の影をば、廻らされた柵の間から恐る恐・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・懐しいコローの絵のような松平家の廃園は、丸善のインク工場の壜置場に、裏手の一区画を貸与したことから、一九二三年九月一日の関東大震災後、最も殺風景なトタン塀を七八尺にめぐらし、何処か焼け出され金持の住宅敷地とされてしまった。 株で儲けたと・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・ 女学校はお茶の水の聖堂のとなりに、広大な敷地をもっていた。聖堂よりに正門があって、ダラダラ坂の車まわしをのぼると、明治初代の建築である古風な赤煉瓦の建物があった。年を経た樫の樹が車まわしの右側から聖堂の境に茂っていてその鬱蒼とした・・・ 宮本百合子 「女の学校」
出典:青空文庫