・・・山川均氏をはじめ、親類の男の誰彼が特殊な事情でそれぞれ女のする家のことをもよくするということで、すべての男性というものを気よくその中へ帰納してしまい、最後に到って飄逸たらんと試みられたものか茶気満々な文体で「たしかに女は家庭の女王である。さ・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・しかし、この作品は、当時まだジイドが宗教や家庭の日常習慣に抑制されていたのと、当時の象徴派の文学的傾向に従っていたので、文体も綺麗ごとに終り、苦しむ青年の魂をひきよせるかわりに、メエテルリンクから「悲しい不思議な、乙女達の愛読書」と評された・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・やはり作者が描こうとした現実とのなまなましい有機的なつながりで構成や文体をも批評することはあきらかである。その際、事件の発展の順序、比重、描写における精疎のリズムなどを何によってわれわれが判断するかといえば、描こうとされている現実の複雑な諸・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・スターリンの時代と経てきた。スターリンの文体は、その明確さ・簡明さ・溢れる生命力の美で、言語芸術の領域に新時代を画している。第二次大戦中の十月記念日に、メーデーに、スターリンがおくった激励の挨拶の、あの人間らしい暖かい具体性、肺腑にしみ入っ・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・の内容的な特徴は、徳永さんもふれているとおり文体の上にくっきり出てきてもいます。この文体には一種の気品があります。なぜでしょう。こしらえた気取りは一つもないが、描こうとする一つ一つの対象にたいして、作者の内面的全構成が統一をもってまともにと・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ミッション・プレス、その他切支丹関係の書類は、歴史的に興味深いばかりでなく、芥川氏が数篇の小説中に巧に活用し、その芸術的効果を高めているような一種独特な用語、文体で書かれているため、文学的な面白さも充分ある。「あるじぜすきりしと」「びるぜん・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・それは、バルザックが一八三〇年代からフランス文学に咲き乱れていた絢爛たるロマンチシズム文学の只中にあって、全く一人の例外者、ユーゴオなどに云わせると、文体もきまらない才能のない野人として、寧ろ除け者のようなとり扱いを受けていたことである。・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・碑文に漢文体を用いるのも、また形式未成のゆえである。これが歴史である。現在はかくのごとくである。 近ごろわたくしを訪うて文学芸術の問題ないし社会問題に関する意見を徴し、また小説を求むるものが多い。わたくしはその煩にたえない。あえてあから・・・ 森鴎外 「なかじきり」
・・・ところで擬古文でさえあるなら、文の内容がなんであろうと、古言を用いていいかというに、必ずしもそうでない。文体にふさわしくない内容もある。都の手振だとか北里十二時だとかいうものは、読む人が文と事との間に調和をかいでいるのを感ぜずにはいない。・・・ 森鴎外 「空車」
・・・ 藤村の文体の特徴も、おそらくここに関係があるであろう。ありのままを卒直に言ってしまうということは、実際にありのままを表現し得るかどうかは別問題として、一つの性格的な態度である。その態度のもとに、素直な卒直な表現の仕方を作り出して行くた・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫