・・・がらくた壇上に張交ぜの二枚屏風、ずんどの銅の花瓶に、からびたコスモスを投込んで、新式な家庭を見せると、隣の同じ道具屋の亭主は、炬燵櫓に、ちょんと乗って、胡坐を小さく、風除けに、葛籠を押立てて、天窓から、その尻まですっぽりと安置に及んで、秘仏・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・これが新式なのでもあるまいと思ったが、口が妙に重くて言わないでいた。しかし石鹸の残っている気持悪さを思うと堪らない気になった。訊ねて見ると釜を壊したのだという。そして濡れたタオルを繰り返した。金を払って帽子をうけとるとき触って見るとやはり石・・・ 梶井基次郎 「泥濘」
・・・これは新式のトーキーだという話である。どれだけのところに独創的な機構の長所があるのか知ることはできないが、ともかくもトーキー器械としての役目をある程度までは果たしているようである。そうしてまず、始めから終わりまで見た後の自分の印象からいうと・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・大震後横浜から鎌倉へかけて被害の状況を見学に行ったとき、かの地方の丘陵のふもとを縫う古い村家が存外平気で残っているのに、田んぼの中に発展した新開地の新式家屋がひどくめちゃめちゃに破壊されているのを見た時につくづくそういう事を考えさせられたの・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・――新式の吉田松陰らは出て来るに違いない。僕はかく思いつつ常に世田ヶ谷を過ぎていた。思っていたが、実に思いがけなく今明治四十四年の劈頭において、我々は早くもここに十二名の謀叛人を殺すこととなった。ただ一週間前の事である。 諸君、僕は幸徳・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ 小屋はずいぶん頑丈で、学校ぐらいもあるのだが、何せ新式稲扱器械が、六台もそろってまわってるから、のんのんのんのんふるうのだ。中にはいるとそのために、すっかり腹が空くほどだ。そしてじっさいオツベルは、そいつで上手に腹をへらし、ひるめしど・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・あわれ二人の つわものは責に死なんと したりしにこのとき雲の かなたより神ははるかに みそなわしくだしたまえる みめぐみは新式生産体操ぞ。ベースピラミッド カンデラブルまたパルメット エーベンタール・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・「でもあなたは金でできてるでしょう。新式でしょう。赤青眼鏡を二組みも持っていらっしゃるわ、夜も電燈でしょう。あたしは夜だってランプですわ、眼鏡もただ一つきり、それに木ですわ」「わかってますよ。だから僕はすきなんです」「あら、ほん・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・ソヴェトで工場が建ち集団農場が一つふえたということは、だから必ず同時に、そこには労働者クラブ、托児所が建ち或る場合にはごく新式の設備をもった住宅さえ立ち並ぶことを意味するのだ。 労働者クラブは、現在ソヴェトに五六四〇〇ある。 そのク・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・共同住宅建築組合に補助金を出してドシドシ労働者住宅を建てているばかりか、新しく出来る大工場には、必ず附属の新式な住宅がある。 モスクワ市の中にだって、真中に花壇や子供の砂遊び場のついた新住宅が目立って殖えて来た。五ヵ年計画は、勤労者の住・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の解放された生活」
出典:青空文庫