・・・その殺人現場における事件の推移はもちろん、その動機から犯行までの道行きをたとえ簡単にでも正確につきとめるためには、実は多数の警察官や司法官の長日月の精査を要し、しかもそれでもなかなか容易にはすみからすみまで明白にしにくいのが通例である。それ・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・たとえば吾人の時間に対する観念の源でも実は吾人の視覚に負うところがはなはだ多い。日月星辰の運行昼夜の区別とかいうものが視覚の欠けた人間には到底時間の経過を感じさせる材料にはなるまい。それでも寒暑の往来によって昼夜季節の変化を知る事はある程度・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・いたずらに指を屈して白頭に到るものは、いたずらに茫々たる時に身神を限らるるを恨むに過ぎぬ。日月は欺くとも己れを欺くは智者とは云われまい。一刻に一刻を加うれば二刻と殖えるのみじゃ。蜀川十様の錦、花を添えて、いくばくの色をか変ぜん。 八畳の・・・ 夏目漱石 「一夜」
・・・炳として日月云々という如き、こういう詞を古人は盛に用いた。感激的というのはこんな有様で情緒的教育でありましたから一般の人の生活状態も、エモーショナルで努力主義でありました。そういう教育を受ける者は、前のような有様でありますが社会は如何かとい・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・漏あるべきなれば、この法を研究するには、盲人の音学に精 ひとり医学のみならず、理学なり、また文学なり、学者をして閑を得せしめ、また、したがって相当の活計あらしむるときは、その学者は決して懶惰無為に日月を消する者に非ず、生来の習慣、あたか・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・物の性と物の働を知るの趣意なり。日月星辰の運転、風雨雪霜の変化、火の熱きゆえん、氷の冷きゆえん、井を掘りて水の出ずるゆえん、火を焚きて飯の出来るゆえん、一々その働きを見てその源因を究むるの学にて、工夫発明、器械の用法等、皆これに基かざるもの・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・なお進て、天文地質の論を聞けば、大空の茫々、日月星辰の運転に定則あるを知るべし。地皮の層々、幾千万年の天工に成りて、その物質の位置に順序の紊れざるを知るべし。歴史を読めば、中津藩もまたただ徳川時代三百藩の一のみ。徳川はただ日本一島の政権を執・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・貧は士の常なりと自から信じて疑わざれば、さまで苦しくもなく、また他人に対しても、貧乏のために侮りをこうむることとてはなき世の風俗なりしがゆえに、学問には勉強すれども、生計の一点においてはただ飄然として日月を消する中に、政府は外国と条約を結び・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・「公明日月の如し」とか、「我が身命を愛さず唯惜しむ無上道」とか、「得意淡然失意泰然」とかいう辞句は時利あらず、いかような羽目にたちいたろうともわがこころに愧じるところなく、確信ゆるがずという文句である。「あら尊と音なく散りし桜花」という東條・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・この二十七年の日月は人類の歴史上かつてなかった大波瀾を内容としていて、彼の見ざる孫の一人ジャンのこの手記が、計らず今日私たちに一種の感動をもって三代のトルストイの生活の上にあらわれた推移を考えなおさせるのである。 ジャンは、この文章の中・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
出典:青空文庫