・・・軽々しい否定は早急な肯定よりもはるかに有害であるからである。これは実験的科学を研究する者に周知の事である。また往々にして忘却される事である。もっともこういうたんねんの吟味をするにはかなりの手数と時間を要する。それかと言って、いつまでもなんら・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・……日本の会合は時間の有害な浪費であると自分は思うと言った。……研究をさらに進めるため洋行する日本の青年学者を思ってみよ。……ところで日本へ帰って来ると、仕事をせよと奨励されずに、会合に出て宴会に出席して、雑誌を発刊して、演説をして、無報酬・・・ 寺田寅彦 「人の言葉――自分の言葉」
・・・それを、木のふたで密閉したから夜間の冷却が行なわれず、対流が生ぜず、従って有害なものが底のほうに蓄積して窒息死を起こしたのではないかというのである。これが冬期だといったいの水温がずっと低いために悪いガスなどの発生も微少だから害はないであろう・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・先生の方で全部装置をしてやって、生徒はただ先生の注意する結果だけに注意しそれ以外にどんな現象があっても黙っているようなやり方では、効力が少ないのみならず、むしろ有害になる虞がある。御膳を出してやって、その上に箸で口へ持ち込んでやって丸呑みに・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・中学校で英語を教えることは有害無益だという説もだんだん盛になって来るようである。思出すままに、わたくしたちが三、四十年前中学校でよんだ英文の書目を挙げて見るのもまた一興であろう。その頃、英語は高等小学校の三、四年頃から課目に加えられていた。・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・この一事においては、往々事情に適せずして有害無益なるものあり。誓えば藩政の改革とて、藩士一般に倹約を命ずることあり。この時、衣服の制限を立るに、何の身分は綿服、何は紬まで、何は羽二重を許すなどと命を出すゆえ、その命令は一藩経済のため歟、衣冠・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・ およそ物の有害無害を知らんとするには、まずその性質を知ること緊要なり。その性質を知らんとするには、まずその物を見ること緊要なり。熱国の人民は氷を見たることなし。ゆえにその性質を知らず。これを知らざるがゆえに、その働の有害なるか無害なる・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・ひっきょう、技芸にても道徳にても、これを教うるに順序を誤り場所を誤るときは、有害無益たるべし。今の小学校は高上なる技芸・道徳を教うる場所に非ざるなり。 小学校の教育は、いつにても廃学のときに、幾分か生徒の身に実の利益をつけて、生涯の宝物・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・況して小説戯作は往々人の情を刺すこと劇しくして、血気の春とも言う可き妙年女子の為めには先ず以て有害にこそあれば、文学の必要よりしていよ/\之を読まんとならば、其種類を選ぶこと大切なる可し。一 婦人の気品を維持することいよ/\大切なりとす・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・文字を教うるは、ただ人の記憶力によるものにて、ただこの記憶力のみを発育する時は、他の推理の力、想像の働等はおのずから退縮せざるをえざるがゆえに、文字を教うるは、決してこれを有害のものというべからずといえども、ただこの一方に偏してこれを教育の・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
出典:青空文庫