・・・ ルーブル紙幣は、サヴエート同盟の法律によって国外持出しを禁じられていた。そこでまた、国外から国内へ持ちこむこともできなかった。旅行者は、国境で円をルーブルに交換して行く、そして国外へ出る時には、ルーブルを円に交換してもらう。それは、一・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・ ここには、内地に於けるような、やかましい法律が存在していないことを彼等は喜んだ。責任を問われる心配がない××××と××は、兵士達にある野蛮な快味を与える。そして彼等を勇敢にするのだった。 武器の押収を命じられていることは、殆んど彼・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・数学の方の私塾はやや営業的で、規則書が有り、月謝束修の制度も整然と立って居たのですが、漢学の方などはまだ古風なもので、塾規が無いのではありませんが至って漠然たるものでして、月謝やなんぞ一切の事は規則的法律的営業的で無く、道徳的人情的義理的で・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・そして、はなはだ尊敬すべき善人ではなくとも、またはなはだ嫌悪すべき悪人でもない多くの小人・凡夫が、あやまって時の法律にふれたために――単に一羽の鶴をころし、一頭の犬をころしたということのためにすら――死刑に処せられたのも、また事実である。要・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・る、左れど此れと同時に多くの尊むべく敬すべく愛すべき善良・賢明の人が死刑に処せられたのも事実である、而して甚だ尊敬すべき善人ならざるも、亦た甚だ嫌悪すべき悪人にもあらざる多くの小人・凡夫が、誤って時の法律に触れたるが為めに――単に一羽の鶴を・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・彼等の考え出すいろいろな革新は僕の周囲に死の機会を増し、彼等の説くところは僕を死に導き、または彼等の定める法律は僕に死を与えるのだ。」 織田君を殺したのは、お前じゃないか。 彼のこのたびの急逝は、彼の哀しい最後の抗議の詩であった。・・・ 太宰治 「織田君の死」
・・・あなたを罰する法律が無いので、いやになったのですよ。お帰りなさい。 ――ありがとう存じます。 ――あ、ちょっと。一つだけ、お伺いします。奥さんが殺されて、女学生が勝った場合は、どうなりますか? ――どうもこうもなりません。そいつ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ 歴史の時間の一部を割いて、実際の国家組織に関する事項、社会学や法律なども授けてはどうかという問に対してはむしろ不賛成だと答えている。彼自身個人としては公生活の組織に関してかなりな興味をもっているが、学校で政治的素養を作る事は面白くない・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・どうも僕じゃ少し工合がわるい。つい厭なことも言わなけあならないから」「そうや。どうも法律を知っているといって、力んでいるそうやさかえ」「まあしかし、円くゆくものなら、このまま納めた方がいい。そうなれば、金の方は後でどうにか心配するけ・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・しかし誰が彼らをヤケにならしめたか。法律の眼から何と見ても、天の眼からは彼らは乱臣でもない、賊子でもない、志士である。皇天その志を憐んで、彼らの企はいまだ熟せざるに失敗した。彼らが企の成功は、素志の蹉跌を意味したであろう。皇天皇室を憐み、ま・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
出典:青空文庫